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~マリアの家~
「――ただいま~!」
あれから友達のカヤとカフェに行ってお喋りしたマリア。新しくできたばかりのお店らしく、お洒落で飲み物も美味しかった。会話が弾んだ二人は店を出た後でもいつものように会話が途切れることなく、分かれ道で手を振って互いに帰って行った。
「遅いから心配したよーマリアちゃん!どうだった?スキルは。」
待ってましたと言わんばかりに、マリアの声が聞こえた瞬間マッハで玄関まで来た父。楽しく帰宅したが、この問いかけに少し溜息が出ながらも、マリアは父にハズレスキルだったことを伝えた。
「ハズレだったよ…ただの文字読み。使い道ないよこんなの。」
「文字読か!良かった良かった!危険なスキルじゃなくて!“騎士団やギルド”はマリアちゃんには危ないからなぁ!」
「――⁉」
「パパが気付いてないとでも思ったのか?パパはマリアちゃんの事なら何でもお見通しなのだ!ハッハッハッ!」
まただ―。マリアは思った。
五歳の頃から父親と二人だったマリアは、当時全く疑問に思わなかったが、年々父親に対し不信感や違和感といったものを抱いていた。マリアが父親に対して疑問に思っていることが大きく分けて三つある。
一つ目はまさに今…。
父親は基本的にマリア溺愛。自分の事は二の次で、マリアに指摘されている様に身なりを気にする事もなければ、怒ったりすることもなくいつもマイペースに生きている。そんな父なのだが、その優しいのんびりした雰囲気からは想像出来ないぐらい何故か昔から“勘”がいい。
今回もマリアは父親に騎士団やギルドの話は一切したことがなかった。なのにバレている…。
「親だから」や「マリアは隠すのが下手だから」等、そう言われてしまえばそれまでだが、マリア本人は少し疑っている。
二つ目は父親の職業。
父親曰く“庭師”らしいのだが、これが一番怪しいとマリアは思っている。確かに、家の庭の倉庫にはそれっぽい道具が沢山あるし、実際に木や花を育てたり植えたりしている。だが、“いつも家にいる”のだ。マリアが物心ついた時からこの仕事を自営でやっているので、当然家にいても不思議ではないのだが、逆に言えば“いない時がない”。
いくら自営でも庭師ならお客さんの所へ出向くのが一般的ではないだろうか。すると当然帰りが遅くなる日があっても何も不思議ではない。
だが、マリアは記憶の限り過去を辿るが、“一度”もマリアより帰りが遅くなったことはない。何年もだ。
しかも、マリアの予想では…そもそもお客さんの所へなんて行っていない―。
つまり“ニート”だ―!
だがしかし、、ちゃんと生活できる稼ぎがあるのも動かぬ事実である。金銭的に困った事は一度もないし、父親がお金に困っているとも到底思えない。
マリアはこれに長年の疑いを持っているが未だ手掛かりが掴めていなかった―。
そして最後の三つ目…。
父親のいくつもの違和感の手掛かりを毎回思い出せる記憶の中から懸命に手掛かりを探すと、マリアは遠い幼い頃の記憶に何故か、“甲冑を身に纏った父親”に抱っこされている姿を思い出すことが何回かあった。とてもぼんやりとした記憶。お姫様抱っこされている幼いマリアの視界は、下から父親を見上げる形となっていた。顔がしっかり思い出せない。そもそもそれが現実か夢か定かでないので確認のしようがなかった。
「バレてるならバレてるでもういいよ!どーせ魔導士になれるようなスキルじゃないし。」
「ご機嫌斜めだなー。スキルは使いようだぞ!」
「じゃあこのスキルで魔導士になれるの?」
「それは難しいと思うぞ!」
ハッハッハッと笑いながらいう父親に腹が立ち、マリアは二階の自分の部屋へ行く。
制服から部屋着に着替えると、そのままベッドへ寝転み今日の事を思い返していた―。
本当ならもっと凄いスキルを手に入れ、頑張って魔導士の道を目指そうと思っていたマリアは、思い描いていた目標のスタートラインにも立てずぼ~っと部屋の天井を見つめていた。
「………あ、そういえば…。」
マリアはスキル文字読みの“解”が、もしかすると他の国の言葉が読めるんじゃないかと思い、淡い希望を抱いて本棚に置いてある他の国の言葉の本を開いてみた。
「…………………読めない……。」
結果はやはりダメだった。だがマリアは勢いよく本を閉じると、スッキリした表情でまた一階へと降りて行った。
向かった先は母親の仏壇。
「ママただいま!スキル授与行ってきたよ。スキルは文字読みだった。思っていたスキルとは全然違うけど、落ち込んでてもしょうがないから切り替える!パパとも何とかして離れてみせるから応援しててねママ!」
娘にそんな事を言われてると思わない父親は、風呂に入っていたのに何故かクシャミが出た―。
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~エド・王宮前~
「――今年はどれだけ“アタリ”がいた?」
「はい!確認したところ自然系スキルが四十名程度、身体強化系が百数十名程度。中でも既に実力が見受けられるのが六名程いました!」
「そうか…。とりあえずソイツ等抑えておけ。」
「はい!」
日の国で今年も未来を担う多くの少年少女がソウルを貰い、スキルを手にした。
マミーが大好きマザコンヤンキー少年レッカ。
ニート疑惑パパに溺愛され過ぎ少女マリア。
この二人もまた、日の国の未来を担う子供達。
希望と葛藤。夢と現実。
これから羽ばたく子供達と不穏な動きを見せる謎の騎士団員―。
それぞれの思いが交差する中、今日という当たり前の一日が過ぎていった―。
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