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~レッカの家~
「……マミー!行ってくるぜ。」
ソウル授与から早一ヵ月。変わらず日の国は平穏な毎日が過ぎ去っていた。
レッカは今日もヤンキースタイルをバッチリ決め込み学校へ向かうのであった。
本当は学校なんて面倒で退屈だと思っているレッカはサボりたいのだが、昔一度嘘を付いて学校をサボった時にとてもマミーに𠮟られた。怒られた事はどうでもよかったが、そのときマミーが一瞬悲しい顔をしたのをレッカは見逃さなかった。
大好きなマミーにもうあんな思いをさせるわけにはいかないと、今日まで無遅刻無欠席でちゃんと通っている心優しいヤンキーなのだ。
通い慣れたいつもの道。学校へ行く為には必ず近くの森の道を通る。ここでも決まって毎日エルフや妖精、動物達と顔を合わせる。
スキル【動物愛】など全く使わず、レッカは自然の動物達にめちゃくちゃ好かれる。毎日新しい動物の友達ができるらしい。
学校の授業は全て居眠りで聞いていないが、魔法の実技となるとここら辺の地区ではずば抜けてトップである。
そして学校が終わればわざわざ遠くからレッカの噂を聞きつけた腕自慢の不良やチンピラと喧嘩をし、毎度瞬殺で片づけるレッカはまた帰り道でエルフや動物達と戯れ、大好きなマミーがいる自宅へと帰って行く。
レッカ少年はそんな毎日を過ごしている…………………………はずが、今日は違った―。
普段通り、今日も放課後の軽い運動(喧嘩)を済ませ帰りの森の道へと向かっていたレッカ。
ポッケに手を突っ込みダルそうに歩いていると、視界の入った一人の女の子と男に目が留まった。
無意識に見ただけだったが次の瞬間、男が何やら強引に女の子の手を掴み、何処かへ連れて行こうとした。
女の子は必死に抵抗しているが、やはり男の力には敵わないのか全然抜け出せそうにない。
それもそのはず。普通の男ならまだ状況が変わったかもしれないが、女の子の手を掴んでいるのは恐らく“人”ではない。
不自然な程大きく屈強な体に、二本足で立ってはいるもののその足元は大きな獣の毛皮と鉤爪があった。獣人族だ。この獣人族と呼ばれる彼らは、人のように言葉も話せるし知恵もある。見た目は狼やライオン、豹など種類は様々。特徴としては見た目は勿論、体が頑丈で二足歩行も四足歩行も出来、戦闘力も高い。
だが見た目で判断してはいけない。人間と同じで無意味に襲ったりなどしないからだ。人間や他の種族とも仲良く暮らしているのが一般的である。その高い戦闘力を活かし騎士団やギルドで活躍する者も多い。
しかし、やはり人だろうと獣だろうとモンスターだろうと、優しい者ばかりではない―。
「ちょッ……何なのアンタ⁉ ……離してよッ……!!」
「お前のスキルこそ、ルーラーが長年待っていたものだ!ボスの所へ来てもらおうか!」
「は⁉意味分かんないんだけど!」
それを見たレッカは反射的に走り出していた―。
二、三十メートルはあった距離を、レッカは一瞬にして詰めた。
「―――おい……。」
「………ガッ……⁉⁉⁉」
走った勢いそのままに、跳躍したレッカは獣人族の男の顔面に飛び膝蹴りを食らわせた―。
自分より一回り以上デカい巨体を吹っ飛ばしたレッカ。獣人族の男はすぐ近くの森の方へ飛ばされ倒れている。
「大丈夫か?」
「……あ、ありがと……。」
風で女の子の綺麗な長い髪が靡く。ブロンドの髪に端正な顔立ち。その女の子もレッカと同い年ぐらいだろうか。隣町の学校の制服を着ていたその子は、怖さで体が小刻みに震えていた。
「勢いで蹴り飛ばしたけど、アレ知り合いじゃねぇよな?」
数メートル先で倒れている獣人族の男を指差し、レッカは一応確認をする。震えを必死に抑えながら、少女はレッカの質問に頷いた。とりあえず一安心したレッカだが、流石に行動が派手過ぎた為、人気こそ少ないが周囲がざわつき始めた。
それとほぼ同時、吹っ飛ばされた獣人族の男がゆっくりと体を起こし出す―。
いち早く気付いたレッカはこのままじゃヤバいと察知し、少女に背中に乗れと促す。少し戸惑った少女だが、一刻を争う事態に一人じゃどうしようも出来ない為、レッカの背中に乗った。
「思いっ切り蹴ったのにやっぱ頑丈だなあの体…。よし。全力で走るからしっかり捕まってろよ!」
そう言ったレッカはとても人一人抱えるとは思えないスピードで森の道へと走り出した―。
早くも数十メートル離れたレッカ達。その頃ようやく獣人族の男が立ち上がった。少しフラフラとしていたが直ぐに立て直し一呼吸置いた後、凄まじいスピードでレッカを追う―。
既に差は百メートル以上あった。常人離れしたレッカのデタラメな身体能力に加え、魔法の実践ではここらトップの実力を誇るレッカは、スキルではなくただの魔法で身体強化のバフをかけていた。これは容易な事ではない。
普通ならば、魔力を体内でコントロールするだけでも難しい。スキルを貰う十五歳までに最低限のコントロールが必要だが、ここまでは誰でも可能。だが、この先の魔力コントロールは騎士団やギルドに入る“魔導士”が扱うレベルだ。
その魔導士でさえ、成り立ての者ではまともに魔法を出せない。ましてや、スキルを貰ったばかりの十五才が到底できるものではない。
馬鹿と天才は紙一重というべきか―。
本来ならとっくに相手に捕まっている頃だが、レッカの超スピードで森の道の半分あたりまで来ていた。
背中から伝わる少女の震えに気付いたレッカは、気を紛らわせようと少女に聞いた。
「――そういやお前名前は?」
「マリア……。」
「マリアか。俺はレッカ。……お前それ隣町の学校の制服だろ?家こっち方面なのか?」
「ううん。むしろ学校の近くだけど、色々出かけたい年頃でしょ?女の子だし。」
なんだそれ?と思うレッカは、まだまだ年頃の女の子の気持ちを理解することは難しかったが、マリアと名乗る少女から少しだけ緊張が取れた気がした。そしてマリアもこの時思い出した―。
レッカをどこかで見た気がしていたマリアは、スキルを貰った日に見かけた廃人と化していたヤンキースタイルの子。あれがレッカだったと―。
平和な時が流れたのもつかの間―。
必死に距離を取ったレッカだが、追ってくる相手は本物の獣。
森を抜けて人通りの多い街に出るまで後一キロ未満だったが、流石のレッカも獣人族に追いつかれる―。
男はすぐそこまで来た。
「やっべ……!この化け物が!」
距離にして僅か数十メートル程、もう五秒もしないうちに捕まる―。
完全に射程圏内に捉えた獣人族の男はトップスピードのまま飛び掛かった。男の鋭い爪のある大きな手がレッカを捉えッ―…「――レッカ!!」
捕まるまさにその刹那―。森のエルフと妖精達が結界魔法で獣人族の男の目の前に結界を出し遮った。
――ズガァァァンッ…!!!!
凄い衝撃音と共にエルフ達の結界にぶつかった男。自らのスピードと勢いが完全に裏目に出て、ぶつかった瞬間意識が飛びそうになる。
「……おお皆!助かったぜ!」
助けに来てくれたエルフ達。間一髪の所で助かったレッカ達だったが、ここからでは逃げ切れないと判断し、マリアを下ろすレッカ。エルフ達にマリアとここから離れる様に頼んだ。立ってはいるものの、そのフラフラした足元の獣人族の男は何とか意識を戻す。その隙にレッカは魔力を高め戦闘態勢に入っていた―。
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