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~エド・王宮前~
「…あっぶねぇ…。ギリセーフだな。」
驚異的な走りで何とかソウル授与に間に合ったレッカ。周りには同じソウルを貰う若者たちが多く集まっていた。
スキルの種類はもの凄く多い。日常生活で扱えるものから騎士団やギルドでなければ扱うのが危険なもの。多種多様にスキルがある。
自分に流れている魔力と併用して使うのが基本的だ。例えば手にしたスキルが「火」であった場合、魔力とスキルを合わせると体外に具現化が出来る。マッチ棒サイズからテニスボールぐらいまでのサイズまでが一般の平均。
それ以上の大きさや質量、具現化した魔力のコントロール等は、それなりに訓練しなければ習得するのは難しい。最低限の魔力コントロールが出来なければ自分もさることながら周りにまで被害が出るのは言うまでもない。
騎士団やギルドに所属する、主に魔力とスキル、それ以外の武器で戦うものを“魔導士”と呼ぶ。
この魔導士達は一般人よりも魔力やスキル能力が高く、且つそれを操る技術がなければならない。
同じ「火」のスキルでも、普通の一般人とこの魔導士達ではスキルレベルが段違いだ。
―ドンッ……。
人が大勢いるせいで皆自由に動けない。そんな中、三人組の男の子達が歩いていると、端にいた一人がレッカにぶつかってしまう。
「…痛って。邪魔だな。」
「あぁ?」
類は友を呼ぶ―。スキル授与と言うこの世界ではめでたい日にも関わらずトラブルを引き寄せる。
レッカはただ立っていただけだが、ぶつかって来た相手が謝るどころか喧嘩腰な態度にイラついたレッカは瞬時にその鋭い目でガンを飛ばした―。
「――⁉」
「…お、おい。コイツ隣の学校の“レッカード”じゃねぇか…⁉」
「あ!あの噂の…!」
どうやらレッカはここら辺のヤンキー界隈では有名らしい。
レッカの雰囲気に呑まれた三人組の男達はバツが悪そうにキョどっている。
「ぶつかってきた挙句、邪魔とか聞こえたけどよぉ。やんのか?」
とても同い年とは思えないレッカの威圧感と、自然に溢れ出る魔力の高さに三人は走ってその場を去っていった―。
「や、やべぇ⁉コイツやっぱ“あの”レッカードだ…!」
「…喧嘩最強のか⁉」
「ああ!い、行くぞお前等ッ…!」
あわや大衆の前で喧嘩騒ぎになるところだったが、とりあえず起こらずに済んだ様だ。
レッカはポケットに手を入れたままダルそうに立っている。去った男達がこんな会話をしていたとは微塵も思わずに。
「…やばかった…。お前誰に喧嘩売ってんだよ!」
「わ、わりぃ…。!まさかあのレッカードだとは思わなくてよ…!」
「噂以上のヤバさだったな…。噂と言えば…喧嘩最強ともう一つ同じぐらい噂になってる“アレ”本当かな…??」
「ん?あの凄い“マザコン”っていうやつか?」
「そうそう。マジかな?」
「俺も聞いた話だけどマジらしいぞ…。しかも母親をマミーと呼んでいるらしい…。」
「…色々怖ぇな……。」
「ああ。二度と関わりたくないぜ…。お前等も気を付けろよ…。」
そんなこんなしていると、一気に王宮前にいた若者たちがザワザワし始めた―。
皆の視線が王宮へと集まっている。それに気付いたレッカも同じように王宮の方へ視線を移すと、そこには【聖王】がいた。
「おおー!生聖王初めて見た…。」
日の国聖王、<ジャレー・ド・モック>
ここ日の国ではジャレー聖王と呼ばれ、国民からとても尊敬され支持され愛されている。
ジャレー聖王は数十年前、国同士の争いが酷かった時代、聖王になるずっと昔、ジャレーが戦いの最前線でその争いを沈めたと言われている。
そのおかげもあり、日の国では今日までとても平和に暮らせる豊かな国になっていた。
国の王である聖王は、普段なかなかお目にかかれない存在だ。レッカもテレビでしか見た事がなかったので少し興奮している様子だ。
そして皆の視線を集める中、聖王が口を開いた―。
「やぁ若者達よ!ここまでご苦労じゃった!」
ジャレー聖王が国民から愛される理由の一つがこれだ。
固いイメージのある王とは対照的な、とても親しみやすいフランクさと明るさ。自然と接する者を笑顔にしてしまうこの愛されキャラはジャレー聖王最大の魅力だ。
「今日はソウル授与おめでとう!未来ある君達の時間を堅苦しい挨拶で奪いたくないから早速ソウル分けちゃう!騎士団員達がこれからソウルを持って君達へ配るから、一人一つ受け取ってくれぃ!これからの日の国を頼むぞ皆の衆!ワッハッハッハッハッ!」
豪快な笑い声と共に、聖王の指示で騎士団員達が次々に若者達にソウルを配る。
ソウルを貰うと皆どんどん食べていく。
「――わ!“水”のスキルだ!」
「私は“浮遊”よ!ほら!少しだけ体を浮かせられる!」
「うわ~。俺は“紙出し”だぁ…。こんな紙を出すだけなんてぇ。」
「ハハハッ!運がなかったなお前。俺は“匂い”だったぞ!色んな匂いをかぎ分けられる。」
「ハズレじゃん!」
「そんな事ない!」
早くもスキルが明らかになり、皆大いに盛り上がっている。アタリハズレ、強い弱い。様々あるが、スキルはどのスキルでも使い方次第で色んな効果を発揮する。と言っても、そこまでのレベルに持っていくにはかなりの修行や訓練が必要となる。
なので一般にとってはアタリハズレは露骨に現れるのだ。
火、水、風等の自然系スキルは一般的にはアタリとされている。
他にも身体を強化したり変化させられる身体系スキルや、聖霊やモンスターを召喚出来る召喚系もアタリだ。
アタリスキルは騎士団やギルド以外の普通の生活や職業に大いに貢献できる。
一方ハズレスキルと呼ばれるものは滅多に出ない。先程ソウルを貰った少年たちがハズレと言っていた“紙出し”や“匂い”も、パッとはしないが重要なスキルだ。紙出しは当然魔力で紙を出せるので環境にとても良いし、匂いも普通の人間では気付かないガスや有毒なものを感知出来る。
ただし…年に二、三人、必ずと言っていいほど“ハズレ確定”のスキルが生まれる。その確率数十万分の一。
ハズレ確定スキルについては主に、既に自分が得意とするものや、生まれながら備わっているものと被った時。
これは例えば、泳ぎが得意な子にスキル“遊泳”等の泳ぎに関するスキルが発動した場合。騎士団やギルドに所属するなら話は少し変わるが、一般レベルでは、泳ぎが得な子の泳ぎレベルと与えられたスキルに“変化”がなさ過ぎてあまり意味をなさないのである。
他にも、音楽が得意な子に“音楽系スキル”や、勉強が得意な子に“勉学系スキル”等、元々の能力と大差ないものが与えられても、多くの子達がそれ以上に変化しない為ハズレと言われている。
周囲がどんどん盛り上がる中、遂にレッカの所にもソウルが回って来た。
「―はい。これに名前書いて一つ受け取って!」
騎士団員がそう言って紙とペンを渡した。レッカは書面にサインしソウルを受け取る。
「これがソウルか…。」
貰ったソウルを少し眺めた後レッカはそれを口に入れた―。
――ドクンッ…。
飲み込んで数秒後、魔力に反応したソウルからスキルが生まれたのを体全体で感じ取れた。
それと同時に、目の前に一枚の紙切れが現れるー。
その紙には“スキル名”と“スキル詳細”が書かれている。ソウルを食べてスキルが生まれた証拠だ。これは全員に同じ事が起きる。
スキルは生まれたが、あまり実感のないレッカは直ぐにその紙を見た。
紙にはこう書かれている。
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スキル名:【動物愛】
スキル詳細:【動物からとても愛される】
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「・・・・・・。」
紙を見たレッカは思った―。
確実なハズレスキルだと――。
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