異世界「フラットアース」
全ての万物に魔力が生まれるこの異世界では、人、動物、昆虫、巨人や小人、エルフに聖霊、ドラゴンなどなど…。
ありとあらゆる種族が暮らしているー。
日の国、水の国、風の国、空の国、地の国の五つの大陸と国からなるこの世界では、ある国では豊かに暮らし、またある国では争いが絶えない。
それぞれの国に一人「聖王(せいおう)」と呼ばれる国をまとめる王が五人おり、この聖王が自らの国と五つの国の均衡を保っている。
異世界フラットアースでは、十五才になると全員が【スキル】を与えられる。
“ソウル”と呼ばれるその小さい豆を食べると、一人に一つスキルが生まれるのだ。それを活かし自分にあった職業を選んだり、得意な事をしていくのが一般的だ。
中には戦闘系に向いているスキルもあり、優秀なスキルやレアなスキルを持つ者は聖王がいる王宮を護衛する「騎士団」か様々なクエストをこなす「ギルド」のどちらかに所属する事が多い。
そして今日―。
日の国で一人の少年が十五才を迎え、ソウルを貰いに日の国の王宮がある「エド」に向かおうとしていた―。
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~日の国・エド郊外~
都心に比較的近い地域。都心が近いせいか人口もどちらかと言えば多い所。
今日は日の国の王宮に多くの十五才が集まる日。日の国はどこもかしこも朝から慌ただしい様子だ。
だが、この世界では毎年ある当たり前の出来事。新たな時代を担う大切な若者達の、大きな一歩となる日であるー。
「――レッカ!早くしないと遅刻するわよ!」
「今行くって!」
赤い屋根のごく普通の一軒家。
母親に急かされ、二階から降りて来た少年もこれからスキルの豆…通称“ソウル”を貰いに行く十五才の若者の一人。
名は【レッカード・ネーション】。母親からはレッカと呼ばれている様だ。
「…アンタそんな恰好で行く気?」
少年の母親が、息子の服装を見て呆れるように言った。
髪が男らしくかき上げられているのはいいのだが、母親の視線は頭ではなくもっと下。服装の事を指摘している様だ。
「俺の勝負服だからな!」
どんな異世界、人種にもやはり異端児やはみ出し者、変わり者や不良等当たり前のように存在する。言い方は様々だが、このレッカ少年に一番合う言葉はやはりヤンキーや不良だろうか。ツッパリスタイルの定番、短ランとボンタンによく似た形の装いをしている。長袖の上着は丈が短く、履いているズボンは幅が少し太めだ。
だがそもそも、この異世界フラットアースに“ヤンキー”や“ツッパリ”等という言葉はない。
レッカはある日、たまたま手に取った他の世界の文化を取り上げる雑誌でヤンキーを知った。バキバキにセットされた髪と“天上天下唯我独尊”という漢のスタイルに、喧嘩の強さで成り上がっていく。そんなヤンキーに一目惚れした。
「今日はソウルを貰う日でしょ?もっとしっかりした服装で行ってちょうだい。」
「ある世界ではこれが漢の正装だ!この恰好をするには覚悟を持たなきゃならねぇんだ。」
「また馬鹿な事を…。」
ソウルを貰うというのは、言わば成長の証でもある。立派な大人とまではいかないが少しずつ子供が自立していってほしいという一つの形ある式の様なもの。
一般的にこの異世界には勉学や魔法を習う為、子供達は魔法学校やスクールに通うのが当たり前であり、十五才の子達はそれぞれの学校の制服や、中にはスーツで来る子達もいる。式と言っても、このソウル授与はとてもラフである。服装には全く規則やルールは無い。だが、大体の子達は制服である。長年の歴史から自然とそうなっていき、それが現在にまで至る―。
「大事な“マミー”の言う事は聞いてやりてぇが俺のスタイルは変えられねぇ。…よし!行ってくる!凄げぇスキル貰ってくるからよ!」
母親をマミーと呼ぶレッカは俗にいう“マザコン”。何よりも大切なマミーを愛する。世の中の男なんて皆マザコン。そう言っても過言ではない。
しかし、自分の母親を大切にする事はとても素晴らく素敵な事だ。生み育ててくれた自分の母が好きなのはごくごく自然な事である。
だが不思議な事に、この母親への想いは度が過ぎると世間から“マザコン”としてネガティブに捉えられてしまうのだー。
そしてそんな度を越したマザコンヤンキー、レッカ少年は元気よく家を出て行った―。
「ホントに馬鹿な子だねぇ~。自分の息子ながら。」
レッカが出て行った玄関の扉がバタンと閉まり、誰もいない玄関を見ながら母親は一人呟いていた。この家ではこれが日常の事である。
母親はやりかけだった家事を再びやり始めた。
「さぁ~て、エドの王宮に向かうか。今日もいい天気だなぁ。」
空は雲一つない快晴。
レッカの住むところは、日の国の中心部エドにとても近いながら自然が豊かである。
自転車、バス、自動車、電車…。同じく今日ソウルを貰うであろうレッカと同じ年の子達がチラホラ見受けられる。
「―レッカ!どんなスキル貰ったか後で見せてくれよ!」
「早くいかないと遅刻しちゃうよ!」
「レッカ~!帰ってきたら遊んでくれよ~。」
「分かった分かった!そんな一遍に話しかけるなよ。」
エドへ向かうレッカへ、近くに住む知り合い達が声を掛けていた。
身体能力が異常に高いレッカは、皆が自転車やバスで向かうエドまでその自慢の快速で走って向かっている。
体力バカとでも言うべきだろうか…。
家から数百メートも離れると、近くには木々が生い茂る森がある。森には学校や街、駅や都心部に向かう道がいくつかある。
レッカは普段行く学校とは反対の都心部の道を走って行くー。
自然豊かな森にはエルフや妖精、聖霊なども生きて暮らしている。その他にも野生の生き物や動物、モンスター等も多く生息している。
「――レッカだ!どこ行くの?」
一匹のエルフが勢いよく走るレッカを見つけ言った。
「おお!今日はソウル貰う日なんだ。だから王宮まで行ってくる!」
足を止めたレッカはエルフに事情を話した。
よく森に来るレッカはここら辺のエルフや動物達と仲が良いらしい。
「そうなんだ!どんなスキル貰えるか楽しみだね。…あ!また無駄に喧嘩とかしたらダメだよ!」
「俺は好き好んで喧嘩してるわけじゃないんだよ。」
「やっぱ目つき悪いからかな…。それとも極度のマザコンのせいかしら…?レッカは優しいのに。」
「悪口なのか褒めてくれてるのかどっちなんだよそれ。」
レッカがエルフと話していると、他のエルフや妖精、動物達も集まってきた。
「どこ行くのレッカ。」
「マミーは元気?」
「遊ぼうよ!」
「クゥ~ン。クゥ~ン。」
「だから俺今から王宮行かないといけないんだよ。マミーは元気だぜ!…お。イノシー!元気にしてたか!コンもいるじゃん!」
レッカは物心ついた時からとても動物に好かれる体質であった為、直ぐに動物達と仲良くなったり動物達が自然と集まってきたりするのである。
レッカはそんな動物達は勿論、エルフや妖精達とも仲が良く好かれている心優しい母親大好きヤンキーなのだ。
目つきが悪いせいかマザコンのせいかなのか…人間の、それもレッカと似たようなやんちゃな者達もある意味引き付けて直ぐにトラブルを起こすのも特徴だ。
「―やべッ!マジで遅れる…じゃあな皆!俺行かないと!また後でゆっくりな!」
「バイバ~イ!」
「スキル見せてねー!」
手を振りながら皆と別れたレッカは急いで王宮へと向かった―。
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