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~レッカの家~
スキル判明から一時間も経たないうちにレッカは家に帰っていた。
「……マミー!!俺は完全にハズレスキルだった…。終わった…。」
家に帰った第一声がそれだった。
「あらまぁ。とりあえずお茶でも飲みな。」
マミーはそう言ってレッカにお茶を出した。朝勢いよく出ていった息子とはまるで別人のような姿に、何だか笑えてくるマミー。
「ほら。どんなスキルだったが見せてちょうだい。」
余程自身のスキルが絶望したのか、レッカは廃人となっていた。マミーの声が届いていないレッカの手からスキルの紙を取ったマミー。
その紙に書かれたスキルを見たマミーは遂に大声で笑い始めた。
「アッハッハッハッ!!その見た目で【動物愛】のスキルだってぇ!笑わせないでちょうだよ!アッハッハッハッ!」
「いくら何でも笑いすぎだろ…。こんなの恥ずかしくて誰にも言えん。」
「ごめんごめんっ!あまりにも似合わなかったからついねぇ~!いいスキルじゃない!ペットショップや動物園で楽しく仕事しなさいね。接客は笑顔でね!アッハッハッハッ~!」
マミーは余程ツボに入ったのか、息子のスキルでずっと笑っていた。
「チクショ~…。帰り道でエルフ達にも笑われたのによぉ~。家でもこんなに笑われるとは…。」
どうやら王宮に向かう時に話していたエルフや動物達と帰りも会い、スキルの話をしていた様だ。
そのエルフ達にもマミーと全く同じ事を言われて笑われたらしい。
「あら、そうなの?エルフの皆は元気だった?この間助けてあげた猪のイノシ―や狐のコンも会ったの?」
「ああ。行きも帰りもな。元気だよ皆!アイツ等お喋り好きだからすぐ集まって来るんだよなぁ~。」
「元から動物とかに好かれるアンタには確かに意味ないスキルだったわね。何故だか知らないけどスキルなしでも昔から動物と仲良かったからねぇ。」
「俺はマミーと旅行や買い物に行けるスキルが欲しかったのによ!こんなハズレスキルじゃ何も出来ん!!」
「アンタそんなんだからマザコンって言われるのよ…。その歳で一緒に出掛けるなんて私の方が遠慮しちゃうわ。」
マミーも自分の息子とはいえ、あまりのマザコン度に年々引いていってるのだったー。
「…こりゃマジで動物園で働くか~。」
「そうねぇ。お母さん的にはその使い余しているバカ体力を騎士団やギルドで使ってほしかったけど、そのスキルだと流石のアンタも無理ね。」
「騎士団なんてこっちから願い下げだよ。あんな集団行動俺には無理だっつうの。入ったとしてもギルドだな。」
異世界フラットアースでは大抵どこの国でも十八才で学校を卒業する。スキルを貰った十五才からの三年間は、そのスキルについての魔法学や実践、スキルを活かせる職業で体験させてもらう等の卒業後の自立を見据えて教えられる。
スキルを与えられた時から、既に騎士団やギルドに進路を決めている者達は現役の魔導士達に教えてもらったり、実際に任務やクエストの体験を受けたり出来る様になっている。
他の職種とは違い、騎士団とギルドは完全な実力主義。魔導士として実力がある者しかなる事は出来ない。
使い方やその人の実力により力を発揮するスキル。ハズレスキルに部類されるものでも使い方によって、騎士団やギルドで活躍する者もいる。
「確かに騎士団タイプではないからね~。ギルドでいいじゃない!頑張ってみたら?」
「入らねぇよ。大体こんなスキル使い道ねぇし。何より…騎士団もギルドも任務とかクエストで平気で二、三日帰れない時もあるだろ。」
「別にいいじゃないそれぐらい。」
「ありえねぇだろ!何日もマミーに会えねぇなんてよ!」
「…………。」
どうにか騎士団かギルドに入ってほしいと強く思うマミーだった―。
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~エド・王宮前~
毎年、スキルを与え終わった後に、王宮前にはその年に出たスキルが張り出される。
どんなスキルが出たのか?自分達の職種にスキルを発揮出来そうな子はいないか?等々、毎年このスキル発表は国民の興味や関心が高い。
今年も多くの人がスキルを見に行ったり、テレビで報道されていた。
「――今年はどれだけ“アタリ”がいた?」
「はい!確認したところ自然系スキルが四十名程度、身体強化系が百数十名程度。中でも既に実力が見受けられるのが六名程いました!」
「そうか…。とりあえずソイツ等抑えておけ。」
「はい!」
銀に輝く甲冑を装備したガタイのいい男。腰には剣を差しており、胸部には騎士団のマークである十字模様が描かれていた。
動きづらそうな甲冑は見た目とは反して、特殊合金と練成魔法で造られてた騎士団特別の装備であり、とても軽く自由自在に曲がる程柔らかいが、かなりの強さの攻撃をも防ぐ防御にも適した甲冑になっている。
騎士団員と思われるこの男は、団の中でも上の者なのだろうか。部下と思われる団員に、何やら不穏な支持を出している。
ここ数年魔導士界隈では妙な噂が少しづつ広まっていた―。
何でも、騎士団の誰かがその年の有望なスキル所持者を裏で支援していると―。
騎士団やギルドへの強引な勧誘や圧力は日の国で固く禁じられている。
あくまでも個人の意思が大事であり尊重される。多種多様を受け入れられる文化が自然と確立されているのが、日の国が平和で豊かな国と言われる確固たる理由である。
だが、どんな組織にもどの時代にも、その秩序を乱そうとする者が確実に現れる…。
今その小さな火種がゆっくりだが確実に、日の国を脅かそうとしていた―。
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