「―あ!ジャレー聖王だ!初めて生で見た!」
国の王である聖王は、普段なかなかお目にかかれない存在だ。マリアもテレビでしか見た事がなかったので少し興奮している様子だ。
そして皆の視線を集める中、聖王が口を開いた―。
「やぁ若者達よ!ここまでご苦労じゃった!」
テレビで見たままのイメージ。マリアもカヤも直ぐにそう思った。
「今日はソウル授与おめでとう!未来ある君達の時間を堅苦しい挨拶で奪いたくないから早速ソウル分けちゃう!騎士団員達がこれからソウルを持って君達へ配るから、一人一つ受け取ってくれぃ!これからの日の国を頼むぞ皆の衆!ワッハッハッハッハッ!」
豪快な笑い声と共に、聖王の指示で騎士団員達が次々に若者達にソウルを配る。
ソウルを貰うと皆どんどん食べていく。
「わぁ~!遂に来た!早く早く!」
「焦らなくてもちゃんと回ってくるよ。マリアったら…。」
元気で活発な性格のマリアと、正反対のカヤ。昔から落ち着いていて冷静なカヤは慣れた様にマリアを扱っている。
そして二人の元へ騎士団員が回って来た。
「―はい。これに名前書いて一つ受け取って!」
騎士団員がそう言って紙とペンを渡した。マリアは書面にサインしソウルを受け取る。
「これがソウル…。」
受け取ったマリアはソウルをまじまじと見つめている。
周りでは早くも色んな子達のスキルが生まれていた。
「――わ!“水”のスキルだ!」
「私は“浮遊”よ!ほら!少しだけ体を浮かせられる!」
「うわ~。俺は“紙出し”だぁ…。こんな紙を出すだけなんてぇ。」
「ハハハッ!運がなかったなお前。俺は“匂い”だったぞ!色んな匂いをかぎ分けられる。」
「ハズレじゃん!」
「そんな事ない!」
次々にスキルが生まれ盛り上がる中、マリアの横にいたカヤは既にソウルを食べていた。
「―見てマリア!スキル出たよ!」
いつの間にか食べていたカヤに少し驚いたが、楽しそうにカヤはスキルの紙を見せて説明してくれた。
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スキル名:【超計算】
スキル詳細:【色んな計算が出来る様になる】
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「超計算だって!良かったねカヤ!家の手伝い出来るじゃん!」
「うん!」
カヤの家は日の国でも有名な建築会社である。将来、親の仕事を手伝いたいと言っていたカヤにはとてもいいスキルだ。建築に限らず、会社や組織、騎士団やギルドでも計算スキルは重要な役割である。それも“超計算”という普通の計算スキルより上位互換である。カヤにとっては完全にアタリスキルだった。
「マリアも早く食べなよ。」
「よし!」
そう言うと、マリアもソウルを食べた―。
――ドクンッ…。
飲み込んで数秒後、魔力に反応したソウルからスキルが生まれたのを体全体で感じ取れた。
それと同時に、目の前に一枚の紙切れが現れるー。
その紙はさっきカヤが見せてくれた“スキル名”と“スキル詳細”が書かれているものだ。ソウルを食べてスキルが生まれた証拠だ。これは全員に同じ事が起きる。
スキルは生まれたが、あまり実感のないマリアは直ぐにその紙を見た。
紙にはこう書かれている。
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スキル名:【文字読み・解】
スキル詳細:【文字を読めるようになる】
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「…文字を読めるようになる……。これだけ…??」
紙を読んだマリアは眉をしかめながらカヤを見た。紙を見たカヤは文字読みの後の“解”が気になった。
「この解ってなんだろう?魔法学でも習ってないパターンだよね…。」
「絶対ハズレだ…。文字読みなんて意味ないよぉ~…。誰でも読めるじゃん!!ハズレすぎて教科書にも載ってないんだきっと!…ハァ~~~~~…。」
物凄い溜息と共に項垂れるマリア。あまりの淀んだ空気にカヤも慌てて声を掛けるが、その声はマリアに届いていなかったー。
三十秒程魂が抜けていたマリアがようやく意識を正常に保ち始めた。あり得もしない希望を抱いて紙を見直すが、何度見てもスキルは変わらない。騎士団やギルドで活躍できる魔導士になる為アタリスキルが欲しかったが、現実はゴミのようなハズレスキルだった。
「……ッア……リアッ…!………マリア!!」
「――!!」
ようやくカヤの呼びかけに反応したマリア。落胆からなんとか這い上がって来たマリアを見てカヤも一安心する。
「良かった~!大丈夫マリア?暫くフリーズしてたけど!」
「え!あ…うん!もう大丈夫ッ!あまりのハズレスキルに気を失いそうだったわ。」
「きっとただの文字読みじゃなくて、他の国の言葉とか読めるんじゃない?」
「家に帰ったらダメ元で試してみる…。ごめんね気を遣わせて。」
大丈夫と言った割に全然大丈夫そうではないマリアを必死に励ますカヤ。それもそのはず。立ち上がって気持ちを切り替えようとしているマリアの目は、明後日の方を見つめ目が死んでいたのであった―。
大事な友達を懸命に現実世界へ連れ戻そうとするカヤとマリアの絆は、これからも一生続いていくだろう――。
カヤが頑張ってマリアに呼びかけていると、視界にマリアと同様…いや、マリアとは比べ物にならない異次元の絶望にやられている男の子を見つけた。
オールバックに独特な服装。さっきマリアとカヤが見たガラの悪そうな男の子だった。
それはそれはとんでもないハズレスキルを手にしたであろうその彼は、風が吹けば砂のように散っていきそうな程、廃人と化していた。
そんな彼を見てカヤは「ご愁傷様です。」と手を合わせ、あの男の子よりアンタの方がマシでしょと、マリアを少しでも元気づける為彼を見ろと指示した。
「確かに…。とんでもない絶望感だわ…。」
その男の子を見たマリアは、自分の落ち込みが噓だったかの様に希望を得る―。
これで気持ちを切り替えられたマリアは元の元気ある姿に戻る事が出来た。
「カヤ!帰りに隣町のカフェ寄っていこ!」
「うん!そうしよー!」
こうしてマリアとカヤは、一つ成長して帰って行くのであった―。
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