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~日の国・エド郊外~
所変わって、とある郊外―。
レッカがソウルを貰いに家を出ようとしていた時と同時刻。
ここにも一人、十五才の少女が今日ソウルを貰おうとしていた―。
「――よし。準備OK!」
ごく普通の一軒家。
鏡の前で軽く化粧を終え、髪型や服装をチェックする少女。身なりが整ったのを確認すると、二階の自分の部屋にいた彼女は一階のリビングへと向かって行く。
「おはようマリアちゃん!今日も可愛いね~よしよし!」
「くっつくな!!」
“マリア”と呼ばれた少女、名は【マリア・エルランプ】
朝からベタベタくっ付いてきた自分の父親に強烈なエルボーを食らわした。
鳩尾にドンピシャし、食らった父親は「ゔっ…!」っと鈍い声と共に膝から崩れていった。
そんな事気にも留めず、マリアはテーブルに置いてるパンを一つ取って食べた。
「…いい攻撃だ…日に日に強くなっていくなマリアよ…。」
打たれた鳩尾を押さえながらゆっくり立ち上がる父親。
無造作に伸びた髪と無精髭がより悲壮感を漂わせる。
「もう~…。いつも言ってるけど髭ぐらい剃って!少しは身なりに気を遣ってよ恥ずかしい!」
「怒ってるのも可愛いなぁマリア。」
娘を溺愛しているであろう父親の発言は最早会話になっていない。これがこの家の日常。
呆れたマリアは食べ終えたお皿を片付け歯を磨き、隣の部屋へと行った。
…チーン……。
そこには仏壇があり、綺麗な女性の写真が飾られていた。マリアはその写真の前で手を合わせ、笑顔で明るく言った。
「おはよう“ママ”!今日は遂にソウル授与の日だよ。どんなスキルが貰えるか楽しみ!ママにも早く教えるからね!」
写真に写っていた綺麗な女性はマリアの母親だった。
近くには他にも数枚の家族写真が飾られており、そこにはまだ幼いマリアと母親が手を繋いで笑っている写真もある。
マリアが母親に語りかけている姿を、父親は後ろから静かに見守っていた。
「遂にスキル貰う日がきたな!マリアちゃんももう十五才かぁ~。早いなぁ。」
「それ数か月前の誕生日でも言ってたから。」
マリアは父親と目も会わさず冷たくあしらい、母親の写真を見ながら小声で語りかけた。
「パパには内緒だけど、私騎士団かギルドに入りたいと思ってるんだ!ママみたいに強くて優しいカッコイイ女性になりたいの!騎士団かギルドなら、任務とかでパパとも程よく距離取れるしね。」
娘がそんな風に思っているとはつゆ知らず、時計を見た父親がマリアに「時間だよ!」と声を掛けた。
言われたマリアは母親に行ってきますと告げ、玄関に向かい慌てて靴を履きながら家を出て行った。
「マリアちゃーん!気を付けて王宮まで向かうんだぞー!近寄って来る男は全員敵だからなぁ~!!」
「もうッ…最悪!」
玄関前から遠くまで響き渡る大声で叫ぶマリアの父。
近くにいた人達がその愛くるしい光景をみて微笑んでいる。だが、年頃の女の子にとってはとても恥ずかしい。マリアはここでも一切振り返らず、全力で走ってその場を離れていった。
「いい~天気だなぁ~おい!雲一つありゃしねぇ。……見てるか?クラリス…。お前がいなくってからもう十年…マリアちゃんもスキルを貰う年齢になったぜ。どんどんお前に似ていくんだ。時折、喋り方やしぐさが似すぎて驚かされるよ。」
父親は雲一つない空を眩しそうに見上げながら言った―。
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~最寄り駅~
あの場から全力で去ったマリアは家から近い最寄り駅に着いた。
同じくソウルを貰う同級生の友達、カヤと待ち合わせ王宮行きの列車に乗り込んだ。
「――ハハハッ!パパ相変わらずだね。」
「ホント呆れる…。恥ずかしいったらないわ。」
「しょうがないよ。マリアのパパはマリア大好きだもん。」
「度が過ぎるのよ…。」
嘆くマリアを優しく慰めるカヤ。家から王宮のあるエド中心部へは二駅で着く。
同じ列車にはこれからソウルを貰いに行くであろう同じ年の子達が多く乗っていた。
「どんなスキルかな?楽しみだね!」
「マリア本当に騎士団かギルド目指すの?」
「勿論!」
「パパなんだって?」
「え?それは…その…あー…。」
バツの悪そうなマリアの態度を見て、これはパパに言ってないなと直ぐに分かるカヤだった。
二人がそんな話をしているともう目的の駅のに着いた。マリアとカヤ以外にも多くの子達が同じ駅で降りていく。やはりみんなソウルを貰う子達だ。
「やっぱりデカいねぇー!王宮は!」
マリアの家からでも見える程大きい王宮は、近くで見ると迫力も凄い。
中心部とあってか、人の多さと活気が郊外とは違った。歩いて十分もしないうちに王宮前の広場に着いた。
既に多くの若者たちが集まっている。
「人多ッ!」
「思ってた以上にいるね…。」
右も左も同じ十五才の子達で一杯であった。
「ねぇカヤ見て!あの男の子の格好。」
マリアが指差した方向には、オールバックにかき上げられた髪と短い丈の上着。太めのズボンのポッケに手を突っ込んでダルそうに立っている一人の男の子がいた。
「怖そうな雰囲気…。」
「アレ本で読んだことあるわ…。確か“ヤンキー”とかいう他の異世界の文化よ。独特ね…。」
フラットアースの女の子には理解しがたい格好であった。
そして王宮広場の祭壇に、聖王が現れた―。
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