次に目が覚めた時には、頭部に違和感があった。
それだけじゃなかった。お尻の部分もどこか変な感覚がある。私は起き上がり、いま乗っている白いベッドから違和感のあるお尻へと視線を向けた。
「……うん?」
お尻から棒みたいな何かが生えている。
そのまま辿ると、それは黒くて細長い尻尾であることがわかった。
「ふえっ……ええっ……!」
あれっ? 私、動物になってしまった?
どど、どうしちゃったのかな。
しかも……なにこれ、尻尾は私の意識で左右に揺らせるではないか。
これはまるで猫さんになったような気分だ。ひとまず頭を触ってみると、フサフサした猫耳の触感がした。
やっぱりだ。私、猫さんになっている……。
手のひらを見返すと、淡いピンク色の細毛が付着していた。
もう少し変わったことがないか、自身をみてみる。服装はそのまま……じゃなかった。袖の短い白のドレスで、スカートの部分は紅色のひらひらがついていた。
これは誰かが用意したのかな。ほんのりと暖かい。
それにしてもここは何処かな。床にカーペットはなく、木造で出来てる一室なんだけど、モルギット城でこんな部屋を見た覚えがなかった。
ベッド以外の家具はなんにも設置されていないし、寝室にしては地味な気がして……。
「あら、やっと目を覚ましたのね?」
部屋にある扉が開くと、アイリスが入ってきた。アイリスは二つのカップと小さなティーポットを握っており、やや慎重に、こちらの方向へと飛んできた。
カップとティーポットはいずれも白色で、汚れひとつすらない綺麗なものだ。
今からお茶の準備をするのだろう。両足を地面に付けたアイリスは、ベッドの頭部分にある長細い物置場に、持っていたふたつのカップを置く。
その後、ティーポットから透明度の高い紅茶を注がれると、蜂蜜のような甘い香りがした。
「えっと……その……」
なんだろう、この気持ち。
まさしく星読みの予言通りになっている……?
もしもアイリスが報いの神なる妖精とするならば、私は自由の身という意味になる。あと、心臓付近で何か突き刺さるような痛みもきれいさっぱり消えていた。
起きたら猫耳や尻尾が生えたりと、何が何だかわからないことだらけなのだが、アイリスには感謝したい。
私は勢いよく頭を下げた。
「あの、ありがとうございます……!」
「地下牢獄のことはお気になさらず。こちらも配慮が少し足りないと思ってましたので」
アイリスはにんまりと微笑む。
「ひとまず手に入れたいものは手に入ったし、あとはお宝本体ですね」
紅茶を注ぎ終えたアイリスはほっと一息つくと、自身の胸元に左手を突っ込んだ。今度はなにをするのかと思えば、小さめの鍵を取り出したのである。
それは青色に光る鍵だ。この鍵が私の心臓部分にあったのか。
でも、どこで使用することができる鍵なんだろう。全くもって検討がつかない。
「その鍵はどこに入るためのものです?」
「――その様子だと、あたしが探しているお宝のことを、詳しく知らないようね?」
アイリスは私の顔に近づける。ベッドの上に乗り上げて、アイリスがとても密着してきそうな気がして、ほんのちょっとだけ恥ずかしい。
「地下牢獄でキミとはじめて会ったとき、六つの国と十二の宝石のこと、口にしたよね?」
……たしか宝石と、魔王城とかなんとかって。
私はアイリスの言葉を思い返す。
そういえば、喋ってました。
「あれって、噂とか言ってませんでした?」
「そうね、六つの国のひとつが、モルギット帝国。そしてモルギット帝国には、二つの国宝級の宝石にまつわるお宝が隠されている、といえば理解しやすいかと」
……なるほど? アイリスの目的はなんとなく理解できそうだ。
怪盗と名乗っていた筋合いも通る。でも、なんで自由を求めた私の星読みに、アイリスのことが映ったのだろうか。
その真相は運命を辿らないと知ることすら許されない。
とはいえ、私は自由を手にした。これからはアイリスと共にしたい。そう感じ始めた。
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