「一緒にそのお宝を探しましょう、探したいです!」
私は素直に伝えた。すると、アイリスは深く頷く。
「ふむ、それなら付いてくると良いわ」
「ありがとうございます!」
「まだ、お礼を言われる筋合いはないかと……」
アイリスは鍵とにらめっこする。
「お宝がある部屋というか、この鍵と対応する肝心の扉がまだ見つけられていないのよ」
「ふむふむ……」
「手掛かりあれば良かったのだけど、君の反応をみている限りではきっと知らないでしょうね」
「その通りです。全くもって心当たりがありません!」
まさにアイリスの言うとおりだった。
鍵の存在も知らなかった私が、扉の場所なんて知る由もない。
「でも、それで構わない」
「ふえ? どういうことです?」
「心配要らないということですね」
いきなり頭をなでなでされた。アイリスの小さな左手が猫耳に触れられて、ほんのりくすぐったい感覚に襲われた。
「や、やめてく……ださい……」
「あら? かわいいのに」
アイリスは手の動きを止めた。
「それはそうと、なんで私は耳が生えたのです?」
「うーんとね……」
「あ、あまり難しい話ならだいじょうぶです、遠慮しときます」
「その耳はね、昔飼ってたコルテという黒猫のもの、というのが正しいかな?」
「黒猫ちゃん?」
「もう亡くなってるけどね」
アイリスの表情が、微かにだが暗くなった気がする。
その黒猫ちゃんと私を、くっつけた?
もしそうなら、いまの私って何なんだろう。
そこで、地下牢獄での出来事を思い返してみた。アイリスとの初対面、選んだのは毒……。
いったん頭の中を空っぽにした。
「私、やっぱり一度死んでます?」
「そうよ?」
「そうよって……」
「大まかに捉えるならそれで合ってる、ということわよ」
「なんか納得できない」
「そうでしょうね。でも、君の選んだ選択肢は間違いではないと思ってほしいかな。今のところは星の流れに逆らうことなく未来へと進んでいる」
「はい? どういう意味です?」
「それは貴方が星読み師でしょ? 知りたいなら自力で探してみなさい」
アイリスは、すっと浮かび上がると、勢いよく部屋の外へと出て行った。
ドアが閉まると、私はベッドの上で身体を寝かせた。
仰向けになって天井を見つめる。
鍵とお宝、妖精アイリス。一度死んで猫耳が付いた私。魔王が求めているものとは何か。
――あまりにも謎が多すぎる。
これから、どうなるのだろう。少し不安げになる私は、ベッドの上にある白い毛布で身を包み込こもうとした。
今はぐっすり眠りにつきたい。そんな気分になった。
「……うーん」
思ったより眠れないかもしれない。
身体をすぐに起こして、もう一度部屋の中を見渡した。
その場できょろきょろする私。
しかし、面白そうなものはこれといって見つからなかった。本棚すらないこの部屋では情報のひとつも手に入らない。
――だとすると、部屋の外に何がある?
ふへー。私はひと呼吸入れて、身体を起こす。
部屋に引き籠もっていても仕方ない。こうなったら自分から動いたほうがためになるかも。
そう思って、ベッドからおりた。
「……と、いっても」
部屋から出てみても、モルギット城となんの代わり映えのない廊下が続いていた。
あれ? ここって、もしかすると本当にモルギット城なのかな。
それならそれで構わない。さっきの部屋は何なのか気になるところなのだが、考えるのは後回しだ。真っ先に探すべきはアイリス。
アイリスがモルギット城の兵士にみつかると面倒になる。まぁ、自分が見つかっても面倒だけど、別の足音が聞こえるわけじゃないので、今のところあまり心配はなざそうだが。
「うーん。目的がお宝探しといっても、アイリスはこの先にいるのかな……」
左右の壁を何度も注意しながら、私は歩いて行く。足音を目立たせないように慎重になるが、道なき道を進んでいるわけではないので、どこかにはたどり着くだろう。
そう思っていると、いつの間にか視界がひらけていた。
頭部の上から熟した白いブドウの実が垂れ下がっており、樹木のトンネルをくぐり抜けている最中のように感じられた。まるで雪景色の果樹園が私をお出迎えしている様子といえた。
ちょっと肌寒さも感じられたが、大したことはない。
そして、やや距離はあるものの、小柄な人影が見えていた。
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