妖精アイリスの宝石強奪大作戦

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お宝探し開始です!?

公開日時: 2021年1月15日(金) 21:30
更新日時: 2021年1月18日(月) 11:21
文字数:1,717

「一緒にそのお宝を探しましょう、探したいです!」


 私は素直に伝えた。すると、アイリスは深く頷く。


「ふむ、それなら付いてくると良いわ」

「ありがとうございます!」

「まだ、お礼を言われる筋合いはないかと……」


 アイリスは鍵とにらめっこする。


「お宝がある部屋というか、この鍵と対応する肝心の扉がまだ見つけられていないのよ」

「ふむふむ……」

「手掛かりあれば良かったのだけど、君の反応をみている限りではきっと知らないでしょうね」


「その通りです。全くもって心当たりがありません!」


 まさにアイリスの言うとおりだった。

 鍵の存在も知らなかった私が、扉の場所なんて知る由もない。


「でも、それで構わない」

「ふえ? どういうことです?」

「心配要らないということですね」


 いきなり頭をなでなでされた。アイリスの小さな左手が猫耳に触れられて、ほんのりくすぐったい感覚に襲われた。


「や、やめてく……ださい……」

「あら? かわいいのに」


 アイリスは手の動きを止めた。


「それはそうと、なんで私は耳が生えたのです?」


「うーんとね……」

「あ、あまり難しい話ならだいじょうぶです、遠慮しときます」

「その耳はね、昔飼ってたコルテという黒猫のもの、というのが正しいかな?」


「黒猫ちゃん?」

「もう亡くなってるけどね」


 アイリスの表情が、微かにだが暗くなった気がする。

 その黒猫ちゃんと私を、くっつけた?

 もしそうなら、いまの私って何なんだろう。


 そこで、地下牢獄での出来事を思い返してみた。アイリスとの初対面、選んだのは毒……。


 いったん頭の中を空っぽにした。


「私、やっぱり一度死んでます?」

「そうよ?」

「そうよって……」


「大まかに捉えるならそれで合ってる、ということわよ」

「なんか納得できない」


「そうでしょうね。でも、君の選んだ選択肢は間違いではないと思ってほしいかな。今のところは星の流れに逆らうことなく未来へと進んでいる」


「はい? どういう意味です?」


「それは貴方が星読み師でしょ? 知りたいなら自力で探してみなさい」


 アイリスは、すっと浮かび上がると、勢いよく部屋の外へと出て行った。

 ドアが閉まると、私はベッドの上で身体を寝かせた。



 仰向けになって天井を見つめる。



 鍵とお宝、妖精アイリス。一度死んで猫耳が付いた私。魔王が求めているものとは何か。

 ――あまりにも謎が多すぎる。


 これから、どうなるのだろう。少し不安げになる私は、ベッドの上にある白い毛布で身を包み込こもうとした。

 今はぐっすり眠りにつきたい。そんな気分になった。


「……うーん」


 思ったより眠れないかもしれない。

 身体をすぐに起こして、もう一度部屋の中を見渡した。


 その場できょろきょろする私。

 しかし、面白そうなものはこれといって見つからなかった。本棚すらないこの部屋では情報のひとつも手に入らない。


 ――だとすると、部屋の外に何がある?

 ふへー。私はひと呼吸入れて、身体を起こす。


 部屋に引き籠もっていても仕方ない。こうなったら自分から動いたほうがためになるかも。

 そう思って、ベッドからおりた。


「……と、いっても」


 部屋から出てみても、モルギット城となんの代わり映えのない廊下が続いていた。


 あれ? ここって、もしかすると本当にモルギット城なのかな。


 それならそれで構わない。さっきの部屋は何なのか気になるところなのだが、考えるのは後回しだ。真っ先に探すべきはアイリス。

 アイリスがモルギット城の兵士にみつかると面倒になる。まぁ、自分が見つかっても面倒だけど、別の足音が聞こえるわけじゃないので、今のところあまり心配はなざそうだが。

 

「うーん。目的がお宝探しといっても、アイリスはこの先にいるのかな……」


 左右の壁を何度も注意しながら、私は歩いて行く。足音を目立たせないように慎重になるが、道なき道を進んでいるわけではないので、どこかにはたどり着くだろう。


 そう思っていると、いつの間にか視界がひらけていた。


 頭部の上から熟した白いブドウの実が垂れ下がっており、樹木のトンネルをくぐり抜けている最中のように感じられた。まるで雪景色の果樹園が私をお出迎えしている様子といえた。


 ちょっと肌寒さも感じられたが、大したことはない。

 そして、やや距離はあるものの、小柄な人影が見えていた。



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