まずはミニ四駆がどんなものか、
見てもらうところから始めようかと思ったけれど!?
六時間目の授業が終わり、部活なり寮なり次の場所へみんな向かっていく。あたしは小走りにとなりのY組に向かった。
クラスの中でも一際輝きを放っている娘。正直、あたしもどっちかといえば浮いてる方だから、ルナのことは何となくわかる。遠巻きに見ていると、だれもルナには声をかけない。同じ部活の娘は連れだって教室を出ていくし、文化系の部は文化系でまとまっていくのに、ルナは一人のままだ。
あたしはずけずけとY組の教室に入っていく。
「あ、あゆみちゃん!」
「すーぱーあゆみん!」
「頑張ってね!」
あの体育館のバトルのせいで、あたしは他クラスでも知られた人間になってしまったようだ。まあ、いいっちゃあいいんだけど……。
「昨日の話、ホントにいい?」
「いいよ?」
ルナを連れ出す。何となく現実感がなくて、頭の中に「?」が踊ってる。
あいかわらず生徒会室に間借りしているミニ四駆部。ノックすると会長の声がした。
「失礼します」
「失礼します」
ルナと二人で会釈しながら入ると、会長が『バーサス』のセッティングをしている最中だった。机に置かれた筐体の回りに、何台かのマシンが並べられている。
「さあ、入って」
ルナを促して部屋に入ろうとしたが、立ち止まったまま。声をかけようとしたところで、ルナは深々と頭を下げた。肩にのっていた金髪が、するりと垂れ下がる。
その動作の、なんというか優雅さにあたしは圧倒された。
「2年Y組、猪俣ルナと申します。この度はミニ四駆部にお招きいただき、誠に光栄に存じます」
これは、本物だ。
あたしや会長のような一般市民とは違う、気配というか空気というかオーラ、そういうものがわいて出ている。
会長も目を見開いたまま固まっていたが、あわてて立ち上がった。
「そんなに、固くならなくても、よ、よくってよ」
ルナは顔をあげた。
「よろしくお願いします」
微笑んで、生徒会室に入る。
「トゥインクル学園中等部生徒会長、恩田奏です」
「よく存じております。日々のお仕事、本当にご苦労様です」
自然な動きで、奏の手をとって握る。あのみみっちい会長が自分から握手なんて気取ったマネをするはずがない。きっと、握手しなければならない空気に飲み込まれたんだろう。
「ほら部長も」
「あ、ごめんなさい。改めて、トゥインクル学園ミニ四駆部、部長の涼川あゆみです」
「ふふ、改めて、よろしくお願いします」
確かに。
まるで、トラスビスがモーターに吸い寄せられるように、簡単に右手が出て、ルナの小さな手と握手していた。
「それで、入部の手続きというのはどのようにするのですか?」
「え?」
思いがけない言葉。
「ルナちゃん、今日は軽く説明だけで」
「いいえ、お手間はいただきません。少し調べてきましたが、ミニ四駆を通じて学校でレース活動ができるのなら、それはとても幸せなことです」
そしてまた、深々と頭を下げた。
「未経験の身ですが、どうかお二方にご指導いただきたくお願いします」
「えー!?」
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