最初の一撃から大きく動く。それによって相手は平常心を失う。
そこまで計算できてこそ、勝者になれる。
マラネロ女学院の方針は、学業でも部活動でも絶対的なエースを育てること。
伝統ある学校ではあるけど、決して裕福な環境ではない。だから全員に小さな機会を与えるよりも、エースひとりにリソースを集中させ、ピンポイントで大きな結果を出す。プレッシャーに耐えて結果を出したエースは校内、いやOGを含めたマラネロ・コミュニティの中で大きな尊敬を集めることになる。逆に失敗したならば、チャンスは二度とめぐってこない。
大きく息をつく。ホームストレートの上流にもうけられたマラネロ女学院ミニ四レーシング部、《スクーデリア・ミッレ・ミリア》のピットスペースはいま、静か。私の回りには集中を乱さぬようにと追加でパーテーションが設けられている。
「なってみたら、それはそれで……。」
立ち上がる。傍らに置いたフレイムアスチュートは、わずかな光を反射して深紅のボディを誇らしげに見せてきた。
「それはそれで、いいものよ」
私はひとりごちて、パーテーション開き、ピットから出た。
出迎えたチームのスタッフ……彼女たちはルール上出走するが、チューナーとしては扱われない。あくまでも私の為の《スタッフ》として動いている……に声をかけ、出走のスタンバイに入る。
既にシステムが起動している《バーサス》のヘッドマウントデイスプレイを装着すると、目の前に巨大な観客席が表れた。ここはまごうことなき、鈴鹿サーキットのホームストレート、ピットウォール。下り坂の向こう、第一コーナーが陽炎にゆれている。
サイレンがなった。
『各チーム、最初にアタックするマシンをコースインさせてください』
アナウンスが流れる。《バーサス》端末にフレイムアスチュートを読み込ませると、私の背後、ピットから甲高いエンジン音が響いた。
ゆっくりとピットロードを走っていく先、各チームのピットからも続々とマシンが現れる。それらを従えるように、アスチュートは加速していく。
「バッテリーは?」
「2.84ボルト、規定値+0.1」
「モーターの回転は?」
「20500、プラスマイナス100」
「気温、路面温度」
「気温19、路面29」
席につきながら、スタッフに指示してチェック項目を確認していく。並んだモニターにはコース全周、マシンの状態、タイム計測の各データが表示されている。
「フレイムアスチュート、バックストレートでタイヤを暖めて」
《COPY》
最初のアタックで確実に結果を出す。そして他チームの出鼻をくじく。それが私が私に課したミッション。
「フレイムアスチュート、ストラトモード5、アタック開始」
《COPY, Strut mode set to 5 》
Qualifying session
Afterr 1st stint
P1 #1 Scuderia Mille Miglia 1.35.283 (1.35.283)
—
P17 #30 Super Ayuming Mini4 Team 1.39.156 (1.39.156)
読み終わったら、ポイントを付けましょう!