ついにきた決戦の日! このレースが終われば、あたしの運命が決まる。
……ってなんの騒ぎよこれ!
体育館にはブルーシートが敷かれ、中等部の生徒だけでなく、高等部のセンパイがたも押しかけて、甘ったるい空気が充満していた。
ステージ上にはプロジェクターが設置され、巨大なスクリーンには既に《バーサス》がつくりだしたサーキットの映像が映し出されている。
「いま到着したようです! トゥインクル学園に、新たな歴史を刻もうという勇気あるアスリーテス! ひとよんで『すーぱーあゆみん』、涼川あゆみ選手~!」
放送委員で同じクラスの沢井ちゃんが、マイクをつかって大音量であたしを呼んだ。百人に迫ろうかというギャラリーの視線、そして喚声を受けて、あたしは……震えながらニヤリと笑った。
これだ。こういうときの、体が熱くなる感じ。これがたまらないんだ。あたしはブレザーの上着を脱ぎ、ポケットにいれていた真っ白なハチマキを締めた。ふわふわする気持ちを、この締め付け感が押さえ込んでくれる。これが、レースだ。
「うっしゃーっ!」
あたしは上着を肩にかけてステージへ走っていった。
もうステージ上には、《バーサス》が二台、並んで設置されている。店頭でもなかなか見ない軽金属の筐体。プロジェクターにHDMIケーブルでつながれていて、インディアナポリスを模したオーバルコースの様子を映し出していた。
なんとか勝って、これをゲットしないと。
「それでは本日のゲスト! マラネロ女学院からの使者! 《エンプレス》ともよばれる女子中学生最強チューナー! 赤井、秀美選手!」
ステージの袖から、長身が現れた。
スラッとスリムなシルエットは、ショートカットと相まって無駄を感じさせない。だけどそれより、言葉を交わす前にわかる、スペシャルな空気をこの人は持っている。
「わるいわね」
知らぬ間に近づいた生徒会長が、あたしの背中越しに声をかける。
「いいのよ。私も《すーぱーあゆみん》と一度お手合わせ願いたいと思っていたから」
「あ……どうも」
差し出された手を、あたしはあっさりと握り返してしまった。そういう説得力が、女帝の笑顔にはあった。
だけどあたしは釣られて笑うわけにはいかない。この壁を乗り越えられなければ、すべてが終わってしまうのだから。スクールバッグから、あたしは相棒を取り出した。エアロサンダーショット。流れるボデイラインが、水銀灯の下で輝いている。
「それでは! トゥインクル学園ミニ四駆部の設立をかけたエキシビジョンマッチが始まります!」
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