第3世代ミニ四ガールズ 1ちゃんす!

仮想世界をハイスピードで駆け抜ける、少女たちのレーシング・ロマン!
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SECTOR-3: KANADE-2

公開日時: 2021年6月13日(日) 16:06
文字数:1,107

前戸のおじ様が作るノンアルコールカクテルは最高……。

!?

この気配は!?

黄色いビルを背にした雑居ビル。その地下にもぐれば、アルコールの匂いとタバコの煙が立ち込めるオトナの世界。

私は、並ぶ扉のひとつに手をかけた。反対の手には、スーパーで買ってきた食材、それに何種類かの100%果汁ジュース。

「おじ様、買ってきたよ」

「お、サンキュ」

扉を開けた先に広がるのは、仄かな明かりの中に並ぶプラモデルとフィギュアたち。特撮テレビの異形のヒーロー、宇宙をかけるロボット、それらに肩を並べて、ミニ四駆の箱も積み重ねられている。

カクテルバー『ホーネット』。

私の叔父にあたる前戸さんがオーナーをつとめるこのバーは、おじ様のこだわりが詰まった秘密基地だ。

もとは純粋なカクテルバーだったのだが、前戸のおじ様が趣味のものを店内に置くようになってから、そうした話題が好きなお客さんが増えてきたという。

半分は善意から、そしてもう半分はここにくる理由がほしいという不純な動機から、週に一度買い物の手伝いをさせてもらっている。

お店のドアを開ける度に店のようすは少しずつ変わっている。この半年でミニ四駆の占める割合がかなり増え、先週、その極めつけが現れたのだ。

「『バーサス』は使えるようになったの?」

「ああ、もう何人かのお客さんにも試してもらってる」

「そう……」

並ぶグラスの中に、軽金属の筐体が隠れもせずにおさまっていた。

前戸さんは荷物をしまい終えると、シェイカーを手に取った。私が手伝いをすると小遣いがわりにノンアルコールカクテルを一杯作ってくれる。そのアクションと、出来上がったドリンクを飲みたい、というのが本当の目的であった。

オレンジ、レモン、パイナップル。それぞれ均等に注ぎ入れ、シェイク。1+1を2以上にするための魔法……前戸さんの目は遠くを見つめて、何かをつかみとろうとしている。そういう姿が私にはまぶしい。そう、涼川さんもそんな風に見えた。

「奏ちゃんの忘れ物をもって、持ち主をさがしているひとがいる」

「……シンデレラ、ですか」

「王子さまの執念は大したものだよ。姫様は、忘れ物が届くまで待ってるのかな?」

そんなオシャレ風な言葉を添えて、カクテルグラスが差し出される。

水面を覆うフレークの下、トロピカルな味がぎゅっ、と詰まっている。

一口飲んで、気持ちは決まった。

「前戸さん、『バーサス』使わせてもらっていい?」

「お、いいよ」

床に置いたトートバッグに手を伸ばす。3年ぶりに触れるその感触。流麗なラインが指先から伝わってくる。

その時、私の手首がつかまれた。

「つかんだ!」

カウンターの下に潜んでいた影がゆっくりと立ち上がり、人のかたちをととのえていく。その笑顔。

「涼川さん!?」

私の手から、エアロアバンテが転がり落ちた。

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