このまま何もできないで終わるなんてできない!
いざ勝負、女帝!
もう、残りは一〇周を切った。
差は三秒。エアロサンダーショットに、ひとことペースアップを命じれば、マシンは加速して前に出るだろう。でもそうすると、一気にバッテリーを使ってしまい、ゴールできないかもしれない。だからうかつには加速できない。
たとえ《バーサス》上でのレースでも、ミニ四駆だから操縦はできない。あたしにできることは、インカムを使ってマシンに指示をすることだけ。そのタイミングひとつだ。
相手のバッテリーの残り、タイヤの寿命、それらは全てラップタイムと、モニターのなかに作られた映像から判断するしかないい。
残り五周、差は一・五秒。
もう行くしかない! あたしはガマンしきれなくなり、《バーサス》につながるインカムのマイクを口に近づけた。
「ペースアップ、マイナス四(一周で〇・四秒ペースアップ)」「COPY(了解)」
コクピットからの通信がとどいた瞬間、エアロサンダーショットは鋭く加速した。差をゼロにすべく、フレイムアスチュートのアウトに並ぶ。さっきまでのタイム差なら、残り一周で前に出られる。そうすればあとは大径タイヤの最高速に任せていれば大丈夫。
そう思っていたけど、そう簡単じゃなかった。
「そうこなくちゃ、ね」
「エンプレス……」
フレイムアスチュートもペースアップ、バッテリーがどこまで残っているのかはわからないが、あたしが動くのを待っていたっていうことだろう。
エアロサンダーショットはジリジリ差を詰めていくけど、もう時間がない!
ひとりで走らせているだけでは得られない、この興奮。自分にプレッシャーをかけて、それを乗り越えていく、この喜び。自分のホビーに学校を巻き込むってのは、確かにわがままかも知れない。でも、いま感じているざわめきを、もっと長く、もっと強く感じていたい。このキモチに嘘はつけないから。
バッテリーはまだ持つ。全開同士の戦いならば、トップスピードで勝っているエアロサンダーショットに有利。
ファイナルラップ。このまま黙って終わってしまったなら、もう、あたしは走れない。負けてもいい。のこり1度のチャンス、ワンチャンスに賭けたいから!
「サンダーショット、全開!」
「COPY」
最終のホームストレート、二台は並んだ。第一ターン、第二ターン、併走したまま。
第二ターンの立ち上がりでフレイムアスチュートが鋭く加速するが、エアロサンダーショットがとらえた。シャーシ半分前に出たまま、第三ターン。こういうときに何もできないミニ四駆はもどかしい。このもどかしさこそがミニ四駆なんだけど!
最終の第四ターンへ。
「あっ!」
あたしにはわかった。バッテリーが急激に消耗する地点、いわゆる「崖」に達したこと。わずかにスピードが落ちたエアロサンダーショットに、フレイムアスチュートが並びかける。
第四ターンから直線へ。差は縮まる。縮まって、縮まって、最後は目をつぶってしまった。
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