同じカナガワでもところ変われば文化も違う。
でも……アイツは場所なんて関係ないってこと? ……秀美!!
小田原さんとは反対側のピットへ挨拶に、と思ってのぞいたところ、すでに世界が違ってた。
壁には、ラッパー……というのですか?サングラスをかけた男性がレコードプレーヤーを指で回している写真のポスターや、大きな筆で書かれたとおぼしき「最強 西湘中学」の文字など。ただ、平常心を失わないためにやってるのだとしたら、これも作戦のうちなのでしょう。
「ごめんください……」
白いベストの背中、見上げるような長身の背中に、私は声をかけた。
振り返ったその顔。日焼けした褐色の肌、ルナのとは明らかに違う、脱色したとおぼしき金髪、そして白いカラーコンタクト。
「あ、さっきの」
「あ、ああ、失礼しました」
「アンタ、それ着るんならもうちょっと、胸がないとな」
そう言って「ニカッ」と笑った顔は、同い年のそれでしたが、一瞬の心理戦に負けた私は思わずその場で膝をついてしまいました。
「会長!」
となりにいたルナに抱えられて、何とか立ち上がりましたが、気力は……。
「ヨコハマのトゥインクル学園、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》、キャプテンの涼川あゆみです」
察したあゆみが、一歩前に出て手を差し出す。
「あたしは西湘中学、《ショウナンナンバーズ》主将の藤沢凛」
がっちりと握手。
「アンタたちか。秀美が話してたのは」
その名前を聞いて、私はルナの腕を思わず振り払っていた。
「秀美を知ってるの?」
「あ、ああ。まあ、近くのレースで会ったときに、少し話すくらいだけど」
「秀美が、何を話してたの?」
私は、あゆみを押しのけて藤沢さんの前に出た。不意をつかれてもこの娘は動じない。
「ん? 《すーぱーあゆみん》は警戒するけど、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》は、正直どうかな、って」
「え?」
予想してなかった内容に、私の頭は真っ白になる。
「藤沢さん」
「ああ、わりぃ。じゃあお互い頑張ろうな」
チームのメンバーに呼ばれて、藤沢さんはピットの奥に戻っていった。
《すーぱーあゆみん》と《すーぱーあゆみんミニ四チーム》? いったい何が違うというのか。私たちではあゆみの足をひっぱるだけだと言うの、秀美……?
開始三十分前を知らせるサイレンが鳴ったのに、私は気がつきませんでした。
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