やわらかい光の中。
グランプリの記憶が、よみがえってきました。
まだ小学生にもならない頃でしょうか。いまに比べると低い視界。開け放たれた窓の向こうから、大勢の人々の話し声と、エンジンのアイドリング音が聞こえてきます。
見下ろすと、原色、金属色、蛍光色、目がくらむような色の大群。
人だかりがいくつもできている、その中心には、空気の流れをつかまえたかのようなフォルムのマシンたち。屋根のないコクピットには、すでにドライバーがおさまっています。
『母上』
記憶の中のわたしがいいました。
……なあに。
『母上、あのね、あちし、大きくなったら、あのクルマを運転するひとになりたい』
……そう、でも難しいわよ。
『どうして?』
……グランプリに出るためにはもっと下のクラスのレースに勝った、選ばれたひとしかなれないもの。それに力がつよくないと。
『ふーん、じゃあ、ああいうクルマを作る人ならどうかな?』
……あら、それならまだいいかもしれないわね。
『うん、あちし、レースに出られるようなクルマをつくる! つくってみせる!そして勝つよ!』
……そう、じゃあがんばりなさい。
見上げた母上は笑っていて……
「母上!」
気がつくと、わたしは寮のベッドの上にいました。
「ルナちゃん」
「大丈夫ですか? もう本当にびっくりして」
恩田会長と、涼川さんが身を乗り出して私を見ています。そうでした。『バーサス』でミニ四駆のレースをして、無我夢中で、コントロールラインが見えたところまでは覚えていますが。
「大丈夫ですよ」
わたしはベッドから降りました。
「それより、レースはどうでした?もう必死でしたので」
涼川さんを見ると、一瞬目を伏せてから、強い視線とともに言いました。
「ルナちゃんが勝ったよ! 0.125秒差!」
「そうですか。じゃあこれで部に入れてもらえますね」
「え?」
二人は、お互い見合わせてから、わたしを見ました。
「そんな、試験のつもりだったんですか……」
「ううん、いっしょに走らせてくれれば、それで十分」
涼川さんが跳び跳ねて、わたしと会長さんを両腕で抱き寄せました。
「よーし、これで部員3人だ! 明日もう、《ミニ四駆選手権》へのエントリーをしちゃおう!」
「涼川さん、まだ猪股さんが出てくれるとは聞いてないですよ」
「やります! わたしと、フェスタジョーヌで参加させてもらいます!」
あの日みた景色、それは『バーサス』でしっかりと再現されていました。
そして、あの日の夢は思わぬ形で実現しそうです。
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