私の初めてのミニ四駆、
運命のマシンは金色に輝くこのコにきめた!
わたしがミニ四駆部に入部したい、ミニ四駆を作ってみたい、そして作ったマシンをミニ四駆部の方と走らせてみたいと言ったら、恩田先輩は『バーサス』を借りてくるといって出ていってしまいました。
いまトゥインクル学園には1台しか『バーサス』がなく1台ずつしか出走できないので、ミニ四駆バーのマスターから借りてくるとのこと。意外と大変なお願いをしてしまったようで、私は今更ながら反省しています。
「さ、じゃああたしたちはマシンを作っときますか」
「え、じゃあこれから買いに?」
「いやいや、あたしのストックがあるから1台好きなのを差し上げるわ」
「本当ですか? ありがとう」
学校を出て寮にもどり、連れられて涼川さんの部屋に入りました。クローゼットのなか、乱暴に押し込まれた衣服とは対照的に、ミニ四駆キットの箱が10個ほどきちんと重ねられていました。
「この中から選んでよいのです?」
「ええ。どれもマシンが壊れたとき用の予備だから大丈夫」
「じゃあ、遠慮なく……」
フォーミュラカーのようなスリムなマシン、ロボットのような武骨なマシン、スタイリングは様々で、走る姿を想像すると本当に今からわくわくしてしまいます。
そんな中で、スーパーカーのような、薄くシャープなスタイルのマシンにわたしの目が止まりました。ところどころアレンジされてはいますが、あきらかにヨーロッパのスーパーカーを連想させるスタイル。
「これ、いただいていいかしら」
「決まった? どれ、フェスタジョーヌか! いいね!」
涼川さんが箱を引っ張り出す。その瞬間、文字通り表情が凍りついたのです。
「ルナちゃん……別のにしない?」
「え? だってどれでもいいって」
「いや、それは言葉のアヤって」
「なにか、ヒミツがあるのね?」
わたしはやや強引に、涼川さんから箱を奪い取ってふたを開けた。現れたのは、パッケージの黄色とは異なる、半つや消しのゴールドに彩られたボディとホイールでした。
「綺麗……」
「フェスタジョーヌ、ゴールドメタリック……。雨の中三時間並んだのに……」
「え? 貴重なものなら別のにしますよ」
「いや、いえ、いいのよ。もともとこうなる運命だった、そういうことで」
「ありがとう」
そのあとは、涼川さんに教えてもらいながら《フェスタジョーヌ》を組み立てていきました。シンプルな構造のシャーシはわたしにもわかりやすく、三十分ももかからずに組上がりました。
「素質あるわね」
「そんなことないわ ただ」
「ただ?」
「小さい頃にクルマを作る人になりたいって言ったのを思い出したの」
「ふーむ」
不意に鈴川さんのスマホがなった。
「はいはい、はい、お疲れ様でした。で、……食堂? わかりました、おります。でも相手は会長で。え? だっていま作ったばっかりですよ? いやいやいやここは先輩がぜひぜひ」
通話を終わらせた涼川さんがこちらを向いた。
「レースは下でやるって。相手は会長よ」
「はい!」
私はフェスタジョーヌをつかみ、立ち上がった。
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