一瞬で終わってしまうのもレース。
でもそれだけがレースイベントじゃない。
私にとって初めての「公式大会」は、何というか、よくわからないままに終わってしまった。
受付に出来た列に一時間近く並んでエントリー。4000人を越える参加者のうち、私たち中学生までの「ジュニアクラス」は全体の1割ほど。
午前中に一次予選が終わるとアナウンスされたけれど、私たちの出走順が回ってくるまでには二時間。
涼川さんは「すーぱーあゆみん」の別名のとおり、さすがの走りで1位通過。
私の方はといえば、4コースからスタートして1周めはトップ。でも一番内側のレーンに移ったあとのジャンプで、音もなくマシンが消えた。本当に消えた、としか表現できない、それほどの静けさのなかで、私のレースは終わった。
「あー眠い」
会場近くの100円ショップで買ってきたビニールシートの上で、涼川さんが横になる。私はその隣でペットボトルの紅茶を飲む。ピクニック日より、という訳にはいかず、空はますます暗くなり、雲が重くうごめいている。
「それにしても、レース以外にはイベントがないんですね」
「そうなんですよ~。でも走らせてうまくいかなかったら悔しいから、次に頑張ろうってみんな思っちゃうんですよね~。」
「次に頑張る、か」
ミニ四駆のおかげで、そんな言葉もすんなり受け入れられるようになった。ジャパンカップが終わってしまった今となっては、ミニ四駆部としての最大の目標、「ミニ四駆選手権」の地区予選に向けて色々考えていかねばならない。まずはエントリーの最低人数、3人に達するように部員をスカウトしなければ……
「涼川さん、って」
振り返ると、小さな寝息と無防備な寝顔があった。仮にも女子が、危なっかしいたらありゃしない。まあ、こういう無防備なピュアさが涼川さんの魅力、などと考えていると不意に、
「どう? 調子は」
頭上からハスキーな声が聞こえた。誰か、を確かめないでも分かる。だからあえて顔は上げずに答える。
「私は終わったわよ」
「そう、お疲れさま」
「そういうあんたはどうなのよ」
「ん、おかげさまで」
目の前に、オレンジ色のエントリーシールが飛び込んできた。私の手元に残ったシールとは色が違う。一次予選通過の印だった。
おめでとう、とすんなり言えるほどさわやかにはふるまえない。せいぜい、憎まれ口をたたかずに無言のままでいるのが精一杯。
「おちつく場所ないから、一緒にいさせてもらっていい?」
「ん、別に断る理由もないけど」
「そう」
女帝、と涼川さんが呼ぶひと。私にはよくわからないけど、結果は残っている。
「おかえり、奏」
差し出された手を、私は反射的に握り返していた。
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