いよいよスタート!
何がおこってもおかしくないのがレースだけど、さすがに驚く!
グランプリで4年連続の年間チャンピオンになったセブルバ・ベットー選手は、鈴鹿サーキットを「神がつくったサーキット」って呼んでる。
左右に振れるコーナーはひとつひとつが難所だし、ヘアピンは安定性と加速力が必要だ。
一方で折り返しのコーナー《スプーン》からは一気に直線ばっかりのコースになる。高速の130R、そしてシケインはミニ四駆で言うならレーンチェンジャー。1周走らせるだけでも気持ちがすり減りそうなのに、これを8時間も続けるって言うんだから《選手権》を仕切ってるひとはどうかしてるよ。
《スタート時刻です》
隊列はいまバックストレートに入った。20台のマシンは2列にならんでコースを進んでいく。
「ペースカーはこの周でピットインだ」
たくみの声。
「全車、トラブルなし」
たまおの声。
「いけますよ」
そして、ルナの声。
本当ならここまでこれたことに感謝したいんだけど、今はそれどころじゃない。
スタートのとき。グランプリやミニ四駆のように、いったん止まってからのスタートじゃなくて、隊列をつくって動きながらのスタートは「間合い」が大切だ。
先頭のフレイムアスチュートがつくるペースに合わせてついていかなくちゃならない。早ければペナルティをもらうし、遅れれば後ろに抜かれてしまう。
「ペースカーがピットに入った」
会長の声。
「よぉし……」
赤いリヤウイングが、エアロサンダーショットの間近に迫る。ペースをおとし、隊列を引き連れてからスタートするつもりみたいだ。
と、ウイングがわずかに左右に震えた。アスチュートのタイヤ、一瞬スリップして路面に赤いマークがつく。
「ペースアップ!」
《Copy.》
2台は同時に、完全に同時にスタートを切った! インコースはフレイムアスチュート、あたしたちはアウト。
ホームストレート、コース上のライトはグリーン。
《いま、スタートです!》
ついに始まった……! っていう、あたしの意識は一瞬で吹き飛んだ。
「あゆみ、外!」
「えっ、なに!?」
スクリーンに目をやると、エアロサンダーショットの背後から黒い影が飛び出して、大外にもちだしてならびかけていた。
「ナイトレージ!」
「志乃ぶちゃん!?」
予選6番手、完全に意識してなかった場所から飛び出し、あたしたちを1コーナーまでに追い抜いて、フレイムアスチュートをインのきついラインに押し込み、短い直線で強力に加速すると、先頭に立ってしまった……!
「ナイトレージ……。」
頭のなかは早くも真っ白だよ……。
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