第3世代ミニ四ガールズ 1ちゃんす!

仮想世界をハイスピードで駆け抜ける、少女たちのレーシング・ロマン!
1chance_jp
1chance_jp

SECTOR-6:HIDEMI-1

公開日時: 2021年11月28日(日) 16:56
文字数:1,029

まだレースは動かない。

先に動いた方が敗北の道を進むことになる。先にそっちに近づいたのは……。

ピットウォールでモニターを見てる私に、後輩が紙コップでアイスティーをもってきた。


「センパイ、よろしければ」

「ありがと。悪いわね」

「いえ……。その、2位キープ……ですね」

「ええ」


他のチームと違って、ウォールの席には私ひとりだけ。判断は常に私が下すのだから、作業するメンバーを増やした方がいい、そう考えてのことだ。


スタートから一時間が経とうとしている。

ナイトレージまでの差はコース半分くらいにまで広がった。ただあのコたちは3周のリードを築かないといけないのだから、まだ道は遠い。


大スクリーンには、接近戦が続いている3位争い、藤沢さんのトップフォースEvo.と涼川さんのエアロサンダーショットが映し出された。ちょうど、改修されたカウルの性能をみるには都合がいい。


ストレートでの最高速度、コーナリングの進入速度、脱出速度。さらには高低差での安定性。


「ちょっと、あなた」


飲み終わったコップを下げにきた後輩を呼び止める。


「あの3位争い、見てどう思う?」

「えー……」


意地悪な問いかけだとはわかっている。


「私たちの後ろで争って、タイム差が広がってくれれば私たちに有利かと」

「ふーん」


よくできた答だけど、表面的な現象をとらえたにすぎない。


「わかったわ、ありがとう」

「いえ」


ペコリ、とお辞儀をして後輩はピットに戻る。

どこが有利なものか。

ローハイトタイヤなのに大径タイヤのトップフォースEvo.に最高速で並んでいるということは、フルカウル化による効果が出ているってことだ。もちろん重量が増えるデメリットがあるにも関わらず、大改造を用意していた涼川さんには感心させられる。


よくスポーツ解説者が使う言葉でいう《伸びしろ》がまだまだあるのだろう。でも大事なのは、今、この瞬間に結果が出せると言うことだ。

マラネロの宿命である勝利の炎を絶やさないようにするには、燃える部分の残っている《薪》を投げ込んでいかなければならない。

私にはまだ……。


と、そんな思考をさえぎって客席からのざわめきが聞こえた。

サイレンが鳴り、ピットロードにマシンが入ってくる。1台、いや2台!


「サンダーショット!?」


エアロサンダーショットとトップフォースEvo.がもつれるようにして背後のピットロードを走る。


「接触!?」


サンダーショットの右後輪が外れかかり、カウルの外にはみ出している。タイヤ自体もホイールから大きくずれているようだ。そしてトップフォースは左フロントのローラーがゆがんでしまっていた。


「何があったの……」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート