アタイのタイムなんてどうでもいい。
ルールの範囲で、今やるべきことをやる。そうすべき時がきただけ。
会場内、何とも言えないどよめき。
「1分……」
「35秒台……」
「前半」
あゆみを中心にしたミーティングで、コースレイアウトから予想される最速タイムは1分37秒台と考えていた。そこからコースアウトしないように余力を残しつつ、最初は39秒台あたりから入って会長やあゆみにつなぐという組み立てだった。
実際、たくみはその通りのタイムを記録したけど、そんな作戦なんか関係なく《女帝》が真っ先にアタックして、とんでもないラップを記録してしまった。
「大丈夫。5人のうち一番速いタイムはカウント対象外だから……」
あゆみが声をかけるが、チームはともかく会場を包んでいる空気は簡単には静まらない。
「逆に、一番遅いタイムもカウントされない。そうよね」
「え、ええ」
アタイは立ちあがって言った。
「次、ちょっと攻める」
「たま姉! 正気?」
「うん、別に予選を投げるつもり、ないし」
「じゃあなんでさ? 今のでみんな焦るからさ、たま姉は確実にいけばいいじゃん」
「それじゃ、勝てないでしょ」
「たま姉……」
「限界をみておかないと。あとのみんなの参考にならない」
たくみの肩を軽く叩いて、あゆみの前に。
「あゆみ」
「うん、お願い。一年生なんだから、ちょっと無理しても大丈夫だよ」
「そうそう。センパイたちにまかせといて」
「猪俣センパイ」
『2番目にアタックするマシンをコースインさせてください』
アナウンスに応えて、アタイはコペンRMZを《バーサス》に読み込ませる。モデルになったクルマはオープンカーの軽自動車。搭載したのは可愛い車体とはあまりにも不釣り合いな、ハイパーダッシュ3モーターとスーパーハードタイヤの組み合わせ。高速コーナーでどこまで耐えられるか。
ピットから出て、一周のあとに計測ラップ。
ありあまるパワーがタイヤをスライドさせるけど、なんとかRMZはコース内にとどまっている。小柄な車体が広いコースでいっそう小さく見える。けどブルーメタリックの車体は右に、左に素早く向きを変えてタイムを刻む。そしてバックストレート。最高速は時速300キロを超える。その先の左まわり高速コーナー。
「全開」
《Negative》
「え」
グリップを失ったRMZはコース外側の縁石を跨ぎ、サンドトラップで何度か跳ね、タイヤバリアに突っ込んだ。本物のレースならマシンは大破、セッションは中断となるところだろう。
見た目が派手なクラッシュに、また場内が沸いた。
「たま姉は《やる》ってなったらやること派手だからな~」
「どうも」
それでも、予選通過ラインよりも下に下がったチーム名、不安にはさせる。
Qualifying session
Afterr 2nd stint
P1 #1 Scuderia Mille Miglia 3.11.165 (1.35.882)
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P– #30 Super Ayuming Mini4 Team — (No Time)
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