会長は、けっしてミニ四駆を嫌ってはいない!
その証拠を何とかおさえるんだっ!
黄色がまぶしい雑貨店のビル、地上七階・地下一階。その地下へエスカレーターで降りていくと、プラモデルがぎっしり詰まったショーケースが現れる。
ホビーショップ『インジャン・ジョー』。
トゥインクル学園から最も近い模型店。全寮制のトゥインクル生が門限までに帰るには、そうそう遠くへは出かけられない。このビルがギリギリといったところだ。
「自然に考えれば、ここに来るはずよね」
あたしは、ひとつの確信を得ていた。
会長は、ミニ四駆を十分に知っている。
その上で部の設立に条件をつけ、《女帝》とのレースをお膳立てした。会長が認めなかった理由は、部活としてやる以上は結果が求められるということ。勝たねばならないということ。決してホビーとしてのミニ四駆を否定しているわけじゃない。
そんな意志があるのなら、勝利へのこだわりがあるのなら、むしろ部の一員として「選手権」に向けて戦ってほしい。あたしはそう思い始めていた。
だから会長がミニ四駆を手に取る瞬間をとらえたかった。そう思ったとき、会長の口からも名前が出た『インジャン・ジョー』へあたしは向かっていた。
「すみません……」
品物を並べている店員さんを呼び止める。ちょうどミニ四駆のパーツを並べているところだった。ほぼすべてのキット、パーツがジャンルごとに並べられていて、気持ちがいい。いや、今はそれどころじゃない。
「はい?」
「あの、人を探してるんです!」
言ってから、訳のわからなさに自分で恥ずかしくなった。
「え?」
「あ、いや怪しいことをしてるんじゃなくて、あの、友達がきてないかなって」
「どんな方です?」
「あの、髪が長くて、メガネをかけてる中3の女子です」
「うーん、そういう感じのコはよくくるからね……」
確かにそうなのだが、つけくわえるだけの情報もなく、あたしの頭は真っ白になる。もう恥ずかしくて逃げ出そうと思ったとき、
「それって、奏のこと?」
おおよそホビーショップに似つかわしくない、長身とショートカット。
「赤井……さん?」
「あ、涼川さん、あのときはどうも……って何?」
私はまさにワラにもすがる勢いで、《女帝》にすがりついた。
「会長って、ミニ四駆好きですよね? このお店に来てますよね?」
自分の頬を指で触りながら、《女帝》は答えた。
「うん、……そうね」
「やっぱり!」
「ただし、3年前までね」
「えっ……」
あたしの肩からスクールバッグが滑り、派手な音を立てて落ちた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!