第3世代ミニ四ガールズ 1ちゃんす!

仮想世界をハイスピードで駆け抜ける、少女たちのレーシング・ロマン!
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SECTOR-5:KANADE-1

公開日時: 2021年12月8日(水) 17:00
文字数:1,134

あゆみ、ごめん。

でも私はここまできたならチャレンジしたい。秀美に勝ちたい、そのための最終進化!《フルカウラーV-Z》!

ピットイン。


《バーサス》の筐体、ロックが外れてマシンがあらわになる。ルナ・たまお・たくみのピットワークも素晴らしく息が合ってる。バッテリーを交換し終わったところで、私は《フルカウラーV》に手を伸ばした。


「何をなさるんですか!」

「言語道断」

「会長はあゆみのサポート役だろ!」


3人がそれぞれに私を攻撃する。当然だ。


「どうせこのまま走ってても、秀美に追い付けない。でも何かやって失敗したとしても、後ろまでの差は大きく開いてる」


私はボディの後ろ、ウイング部分に触れた。後方に伸びたフィンの間、フラップ部分は別パーツになっている。


「だったら、仕掛けてみてもいいんじゃない?」


パキン、という小気味いい音ともにパーツが外れた。フラップを失ったフィンは、まるでドラゴンの頭に生えてる角のように、後方へ鋭く突き出している。


「会長、そんなことしたら……ん、んー、まあ、大丈夫か、そうか!」

「うん、ありがとう」


頷いて、立ち上がった。


「エアロサンダーショット《フルカウラーV》最終決戦仕様、《フルカウラーV-Z》!!」


私はマシンを《バーサス》にセットした。一瞬の読み込み時間を経て、異形のマシンを映したモニターに驚きの声が上がった。


「会長、ただパーツをとっただけじゃん」

「……安直」

「いや、違う。ウイングで生まれるダウンフォースを捨てて、空気抵抗を減らしながら車体全体でダウンフォースを生み出すってこと、ですよね会長」


あゆみが傍らで言う。


「そう、ひとつの狙いはね」

「ひとつ? 別に何かあるんですか?」


私は口元が震えるのを押さえられなかった。


「秀美を、ゆさぶらないと」

「ゆさぶる……。」

「あのコ、最後になるとどうしても緊張するんだか、あり得ないミスをする。だから自分のミスを計算にいれて少しでも多いリードをつくろうとする」

「自分のミスを計算に……。じゃあ揺さぶったって意味なくないですか?」

「そう、普通のレースならね。ただこんだけ走ってきて、マシンも人も壊れてきてる。その時に秀美が何をするか。ズルいかも知れないけど、そこからチャンスを見つけたいのよ」

「なるほど……。」

「何をするかは正直、どうでもいいの。私たちが『何かを仕掛けてきてる』ってことをわかりやすく伝えればいいだけ」


《フルカウラーV-Z》がコース上、バックストレートにかかったところで歓声が上がった。ダウンフォースの総量が減った分、立ち上がりの加速、最高速の伸び、あきらかに違う動き。その分高速の130Rではバランス悪く、シケインではタイヤが白煙を上げた。


トータルのタイムが出たけど、私は別のところ、赤いマシンのラップタイムを見つめていた。うまく気づいて反応してくれれば。


「秀美……。悪く思わないでね」


残りは一時間を切ろうとしていた。



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