生徒会長たるもの、学生から嫌われるのも仕方がない、とは思うけど……。
気がつけばあいつにリダイヤルしてた……。
「うん……うん、そういうことで。昼間も突然で悪かったわね」
『ま、こっちのプラス1ポイントってことにしとく』
「うん」
「じゃあ明日、ウチの学校の《バーサス》持って行かせてもらうわ」
「ありがとう」
『そんなに意地張んなくてもいいんじゃない? 楽しくやれればそれでいいじゃない? 楽しくやれれば、それでいいと思うけど』
「そういうわけにもいかないのよ……」
『ま、行かせてもらうわ。それと、あなたのことも待ってるから』
「うん……」
私は通話を終わらせ、スマホをベッドの上に置いた。自分の部屋の空気は蒸し暑く、開け放した窓から入る空気も熱気を帯びている。全寮制で相部屋が基本だけど、生徒会長特権とやらで、私には一人部屋があてがわれている。枕元に置いた書類をつかむ。
『部活動新設届出書』
よく言えば勢いのある、悪く言えば乱暴な字でかかれた1枚の紙。
○設立を希望する理由
ミニ四駆は発売から三〇年を越える模型自動車のホビーです。最近では、クルマの性能を読み取り、バーチャル空間でのレースをシミュレーションする《バーサス》という機械が開発され、女子中学生が参加できる大会も開かれています。私は、トゥインクル学園にミニ四駆の速さをみがく部をつくり、選手権への出場資格をもらって大会に出場します。そして、勝ち、全国大会に出場し、トゥインクル学園を最強のミニ四駆中学にしたいと考えています。
○部長
二年Z組 涼川あゆみ
○部員
(空欄)
○顧問名前、印鑑あり
確かに、書類にはなんの不備もない。いや元々部の新設に関して明確なルールはなかった。それを、あの涼川あゆみという子は乗り越えて、校則を読み込み理解した上で動いている。
この書類も、どうせ無理だと思って吹っかけたつもりが、きちんと作ってきてしまった。
でも、許したくはない。
ミニ四駆は、あくまで趣味の範囲でやるものではないのか?勝ち負けにこだわるからこそ、痛みや苦しみもまた生まれるのではないか?
部屋に目を移すと、ポータブルピットに突っ込んで、クローゼットの奥に押し込んだ、《それ》の気配を感じる。ただのプラスチックのカタマリのはずなのに、《それ》はみずから熱を持っている。そう、感じる。
「やっぱり、逃げられないのかな」
私は、ベッドにからだをあずけた。柔らかなスプリングがぐっと縮んで受け止めてくれる。
「この、熱気から」
独りごちたとき、吹き込んできた風に、カーテンが揺れて広がった……
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