いよいよ耐久レースがスタートします!
さっき見せられたニューマシン、あゆみちゃんってすごい!
《スタート10分前です》
アナウンスに合わせて、甲高いサイレンが鳴りました。ピットの外のざわめきも一段と大きくなってきたようです。予選を残念ながら通過できなかったチームも、ほとんどが会場に残って決勝のレースを見ていかれるようです。少し、緊張してきました。
「みんな、準備はいい?」
あゆみちゃんが声をかけました。
その手には、さっき見せられたニューマシン、エアロサンダーショット《フルカウラーV》が握られています。
「私と会長は、ピットウォールに貼り付いて作戦を練っていきます。ルナちゃんとサオトメズは、マシンの状態チェックとピット作業をお願い」
「よっしゃ!」
「承知」
ランチのあとで各選手に1台ずつタブレットが配られました。これにはマシンの状態や全マシンのラップタイムなどが表示されるのですが、さすがに一人で全部の画面をみることはできません。チームのメンバーで役割を分担してトラブルをどれだけ少なくできるかが勝負の鍵……。そう、あゆみちゃんは話していました。
そしてピットウォール……本物のサーキットではホームストレートに面したコンクリートの壁です……に作られた席からは、タブレットには表示されない、リアルタイムの映像がうつるスクリーンを見ることができます。そこに座れるのはマックスで2人まで。つまりあゆみちゃんと会長。
一方で私たちはピットのなかで待機しています。ピットの中心には、《バーサス》の端末がおかれていて、バッテリー交換などのピット作業のときはここで行うことになります。
「あゆみ、そろそろ」
「そうね」
会長にうながされて、あゆみちゃんがマシンをセットしました。流れるボディを包む、さらに流れるような衣。
《バーサス》のパネルがとじて、マシンを読み取ると、バーチャルのサーキットにも《フルカウラーV》があらわれました。
「あ……みんな驚いてるね!」
あゆみちゃんを振り返ると、腕を組んだまま静かにうなずきました。
「あゆみちゃん、それにしてもいつ作ったの?」
「ん……前から少しずつね」
「ふーん……。」
言いながら、あゆみちゃんはピットウォールへと向かいました。
「腹が、決まったのか」
たまおちゃんが、不意にそんなことを言います。
「どうしてそう思うの?」
「背中が」
「背中?」
「そうです」
ポニーテールが揺れる、あゆみの背中。確かにそう言われれば何かが変わったようでもあるし、そうでもないようにも見えますが……? まあそういうものなのでしょう。
「そっかあ」
言ったとたん、急に、またサイレンが鳴りました。
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