これは、夢だ。
六年前、俺もフィーネも故郷のアル村にいた頃の記憶。
フィーネは小さくて怖がりな幼馴染だ。たまたま大きな才能を、聖なる力を生まれ持っていたことは最近になって分かったけれど、だからって性分まで変わるわけじゃない。
誰かがそばにいてやらないと。
フィーネが震えて泣くときに、隣にいられる誰かが要る。彼女の才能を受け止められる、強い誰かが必要だ。
だから俺は毎晩木刀を振る。
木刀を振る。
木刀を振る。
強くなる方法を他に知らないから。
人間が相手とは限らない。硬い鱗を持つドラゴンや、黒曜石の体のゴーレムだっているかもしれない。木刀に岩を括り付けて膂力をつける。
相手が巨大で硬いばかりとは限らない。素早い虫やコウモリのゾンビだっているかもしれない。木刀で木の葉を打ち、降ってくる雨粒を目で追う。
「まだまだ、か」
傷だらけの木刀を見つめて独りごちる。
測る方法がないので分からないが、世間では輝力というもので実力を測ると聞いている。輝く力、だ。
実際、聖輝力を解放したフィーネはまばゆいばかりの光を発していた。輝力、という言葉があの輝きを指すものだとするなら、俺の木刀がまったく輝きを放つことがないのは実力が不足しているからなのだろう。
これじゃダメだ。もっと、もっと、もっと強く。
毎日、毎日、食事と睡眠と農作業の時間以外は木刀を振り続けた。
そうして二年後。フィーネが村を出ていくことになった。将来を期待された聖職者として首都の聖堂に行くという。
「まだ足りてないけど」
フィーネの出発前夜、俺のその時の力を見てもらった。
きっと首都にはとてもとても強い人がたくさんいるのだろう。そう語り合いながら、木刀で割った岩からのぞく月を見上げてフィーネに約束した。
「俺もいつか村を出ていく。フィーネはきっと先を走ってるかもしれないが……追いついてみせる」
「……うん」
俺の手を握りしめてフィーネは小さく頷いた。夜の森はフィーネにとっては心細いのだろう、その手は少しだけ震えていた。
「じゃあ私も約束する」
そうだ。
自分がした約束は覚えていたが、フィーネも約束をしてくれていた。
「ユーリが一人前になったら……」
その続きを聞く前に。
猛烈な殺気が俺を現実へと引き戻した。
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