【完結:怨念シリーズ第3弾】潤一郎~呪いの輪廻~

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社会への怨恨

公開日時: 2021年10月2日(土) 12:40
文字数:5,331

9月12日。

反町の死の連絡を受けてから一夜が明けた。


改めて反町から工賃を受け取った大嶌が一人寂しく、日曜日の朝に旧染澤邸の現場に訪れた。


「明日にはお寺さんを呼んでもらって、地蔵に潤一郎の御霊を封じるための手配をしなければいけないな。」


そう思いながら、お地蔵さんの前に立った。


「・・・・・・・・・!?」


恐怖のあまりに思わず腰がすくんでしまった。


「一体誰だ!?地蔵に誰がこんなことをしたんだ!?」


大嶌はたまらず休みではあったが木藤と山嵜の個人携帯を鳴らした。


「たっ、大変だ!すぐにでも広場の工事に来てほしい!大変なことになっている!」


知らせを受けた木藤と山嵜が慌てて現場へと駆けつけた。


木藤が大嶌に「何かあったんですか!?」と駆け寄ると、大嶌は「地蔵を見てほしい。」と話し木藤も確認をした。後を追うように、山嵜が広場へと入ってくると、大嶌は山嵜にも同様の説明を行った。


「地蔵が、地蔵が、こんなことってあるのか!?」


大嶌が言葉を失うのも無理はなかった。


昨日設置したばかりの地蔵が、お腹の部分で真っ二つに割れていた。


割れた地蔵の上半身は前のほうに落ちて砕かれていた。お腹から下の部分だけが無事で設置をした小屋の中に綺麗に残ってあった。


地蔵の様子を改めてみた木藤が大嶌に「警察に通報しましょう。今できることを冷静になって考えましょう。」と説得をした。二人の話を聞いていた山嵜が後ろから近づくと大嶌に「誰かの悪戯にしては悪質すぎます。こんな罰当たりなことを果たして誰がどんな目的でするんですか?理解に苦しみますよ。」と話すと、大嶌は「わしには分からない。ただ言えることは潤一郎の御霊がまだここにいるかもしれないということだけだ。」と話すだけだった。


木藤が警察に通報後、15分ぐらいが経ってパトカーがやってきた。


警察官が壊れた地蔵を見て現地である程度調べた後、大嶌に「器物損壊罪で捜査します。2~3日は証拠集めのために現場に入れなくなります。」と話した後、二人駆けつけたうちの一人のある警察官があることを忠告した。


「悪いことは言いません。この地に限って、我々の捜査でも物証が掴めない程の謎の事件や事故は多発しています。霊障があるとは認めませんが、ここに限っては何かあるとしか思えません。呪殺されるまでに御祓いをしたほうがいいですよ。」


その話を聞いた大嶌はえっとなって何も言い返す言葉が見つからなかったが、話を後ろで聞いていた山嵜は納得がいかず突っ込んだ。


「霊障があるとは認めないんですか?それなら何で、物証が掴めない事件や事故が多発しているこの呪われた地に今もなおこの地で死んだ潤一郎の化け物が存在しているとでも言いたいんですか?違いますか!?生きていたら今頃監獄で罪を償っていただろう、潤一郎が死の道を選ばなければだけの話になりますけどね!この手で逮捕できなかったことに対して何か罪紛れなことを今俺たちに説明したいんですよね?」


指摘を受けた警察官は黙り込み、もう一人の警察官が質問に答えた。


「これまで、この地に暮らし始めた住民の全てが無理心中事件を図っています。我々の調べた限りでは、それぞれの家庭は幸せで順風満帆で何不自由なく過ごしていた家族ばかりです。中には役職が昇格したばかりの人もいました。一体何が、彼らを凶行に導き出したのか、わたしたちにはわかりません。こればかりはもうお手上げです。しかし、潤一郎の生前の姿が映し出されたあのYouTubeの幽幽というアカウントがアップロードをしたあの動画の存在には我々は非常に驚かされました。撮影した8mmフィルムがあるということは、誰かが背後で撮影をして、潤一郎が自殺をして行く様子を撮っていたということになります。殺人罪にはならないが、自殺幇助の罪になる可能性があります。しかし、殺人ではないため、残念ながら自殺幇助で訴えるには時効が成立しています。」


淡々とした口調で答えた後、二人の警察官はその場を後にした。


木藤が大嶌に「社長、あの説明で理解できたんですか?」と話すと、大嶌は呟くような口調で語り始めた。


「地蔵はひょっとすると、潤一郎の呪いを身をもって守ってくれたのかもしれない。だとしたらまだここに、潤一郎がいる。」


大嶌がそう話すと、地蔵の近くへと駆け寄った。


「ありがとう。お地蔵さん。潤一郎の呪いを身代わりしてくれたんだよね。」


大嶌が地蔵の前でそっと話すと手を拝み始めた。


その様子を見ていた木藤と山嵜が静かに見守る。


木藤が大嶌に「暫くの間はまた警察の捜査が入って立入が制限されますから、この際ですから工事に携わった関係者全員で四国のお遍路さんの旅にでも出ましょうか?」と話し出すと、山嵜は木藤に「何言ってるんですか、女里谷よめたには全治1ヶ月の重症ですよ。手術は成功したと聞きましたが、骨折した右頬骨がまだ固定していないため暫く安静にしなければいけないみたいですよ。」と話した。


その後、大嶌は昨日の話を木藤と山嵜に説明を行った。


「昨日、反町さんの遺体が安置されてある警察署に行って、2000万円の入ったボストンバッグを渡されたのだが、その中にわしへの手紙が入っていた。この2000万円には工賃1200万円のほかに供養代として800万円を地下に眠っていた遺影と位牌を預かって供養してもらっている天空寺に使ってほしいという内容だった。地蔵は新たに作り直さなくても、嶌田石材工務店に頼めば上半身の部分だけでも綺麗に作り直すことぐらいはできるだろう。接着をした状態が痛々しい見た目にはなるが、新しく作り直すよりも、身代わりになってくれた地蔵を大切にしたほうがわしは良いと思っている。きっと闘ってわしらを守ってくれると思うんだ。」


2人に説明すると、最後にこう話した。


「良いか?これから話すことは非常に重要なことだ。反町さんがわしに宛てた手紙にも書いてあったことだ。悪というのは、人がそれぞれ持つ心の弱さに付け込み、精神的に弱ってくるのを狙って攻撃をしてくる。木藤や山嵜にも悩み事や抱え込んでいることがあれば、この地ではそういった概念は忘れたほうがいい。潤一郎がその弱みに付け込み攻撃をしてくる可能性が高い。誘惑されないことも大事だが、悪に導かれないためにも、常に己を強く保たなければ潤一郎とは闘えない。」


その話を聞いた木藤と山嵜は「わかりました。」と口を揃えて返事をした。


一同は現地を後にした。


山嵜は家に帰るまでに、近所のインターネットカフェに立ち寄り、ブラックコーヒーを片手にパソコンのインターネットを起動すると、YouTubeのサイトにアクセスした。警察官が言っていた、幽幽のチャンネルでアップロードされているという動画の内容が気になって気になって仕方がなかったからだ。


「幽幽チャンネルってこれのことだろうか?」


山嵜がそう思いながら、アップロードがされてある動画の一覧からある動画が気になって、クリックをしてみることにした。


”自滅の瞬間”


そう書かれたタイトルに映し出された映像には、血しぶきを浴びた30代半ばと思われる男性が映っていた。


「1974年7月24日夜の2時を回ったぐらいだね。俺は愛する家族をこの手で殺してしまった。豊子に、息子の宏親、靖典、智紀、皆ごめんな。でもこうするしかなかった。俺は小鳥遊たかなしを悪魔になってでも復讐を果たしてやる。地獄できっとサタン様が俺のことを見守っていて下さっているだろう。怨念で漲るこの俺に大いなるパワーを授かるためにはこうするしかなかった。誰かに殺され怨念を抱きながらこの世を彷徨うより、怨念を抱きながら自らの手で殺したほうが、より悪のパワーが増す。霊の存在は俺は信じないが、本で読んだこの内容だけは俺は信じてならない。俺は死んで悪魔になる。そしてのうのうと生き続ける小鳥遊たかなし悟を追い詰めてやる。今迄支えてきてくれた、皆ありがとう。」


男性がそう話し終えると、動画はここで終わっていた。


その他にも何かあるだろうと思い、山嵜は動画の一覧から選び始める。


“望月の最期”


これは一体何だろうと思い、クリックをしてみることにした。


森の中だろうか、背後からは水が流れる音が轟々と聞こえてくる。

30代半ばだろう優しい感じの風貌の男性がカメラを前に語り掛ける。


「モチヅキ・ドリーム・ファクトリーは借金が膨らみに膨らんだ結果、倒産する流れとなりました。俺を支えてくれている妻や子供達には家や車を財産差し押さえで失ったばかりでなく、数億円にも上る借金の返済を背負わされ、夫として父としてこの上なく力不足で満足な生活を送ることが出来ず申し訳ない気持ちでいっぱいです。どうかこの罪深い俺を許してください。そして俺は、裏切った小鳥遊たかなしを許さない。悪霊になってでも俺は小鳥遊たかなしに制裁をしてやるんだ!」


動画はここで終わっていた。


山嵜は更に気になって、他の動画を見てみることにした。


”最後の訴え”


動画にはまだ20代だろう、若い男性がトンネルの前に立って映し出されていた。


「今日は1975年3月29日、撮影を行っているのはちょうどお昼の12時を回ったぐらいの時間ですね。僕は就職活動を続けていますが、相変わらずですが、次の勤務先がまだ決まっていません。事件が大々的に報道されてしまっている以上、海外へ渡航をするしかありません。今僕は死ぬ前に桜の名所として非常に有名な福岡県の京都郡みやこ町にあります仲哀公園にきています。この先にある仲哀隧道ではかつて日本中を騒がせたあの西口彰事件の被害者が殺された場所としても仲哀隧道は知られています。その事件現場だった箇所に鎮魂の意を込めて足を運んでみたいと思います。僕は生前の兄がこの8mmフィルムを通して語り継いできたことを可能な限り語り継いでいきたいと思います。この地を訪れてみて、色々なことが走馬灯のように蘇った。伝えたいことは色々ある。小鳥遊たかなしへの憎き思いも、兄を追い詰めた復讐をしてやりたい気持ちもある。だけど俺はそこまではもうしない。”怨念で漲るこの俺に大いなる力パワーを授かるためにはこうするしかなかった。誰かに殺され怨念を抱きながらこの世を彷徨うより、怨念を抱きながら自らの手で殺したほうが、より悪の力パワーが増す。”とは、染澤さんが亡くなる前に伝えていたダイイングメッセージだったが、仮に社会を怨みながら自殺をもし遂げたとしたら、果たしてどうなるのだろうか。俺はきっとその道を歩むことになるだろうな。」


男性がそう話すと、動画は終わった。



流石にこれ以上動画を見ていては呪われそうだと思った山嵜は動画の再生を止めた。


「あの動画は一体何だったんだ!?特に”最後の訴え”が一番怖すぎる。」


生前の望月しげるが映し出された映像を見てしまったことに後悔した山嵜はこれまで見た動画の内容を振り返り、頭の中でふとあることを考え始めた。


「まさか。最初に見た”自滅の瞬間”は染澤潤一郎の生前の最期のダイイングメッセージの動画なのだろうか。その後に俺が見た”望月の最期”や”最後の訴え”に出てくる男性の正体は一体何だろう?潤一郎を知る上において知らなければいけないことがあるのだろうか?」


一度疑問に思ったことは調べなければ気が済まなかった山嵜は、Googleの検索画面を出して”モチヅキ・ドリーム・ファクトリー”と検索をしてみた。


するとかつて存在していた会社だったが、会社が経済難になり借金が膨らみに膨らんだ結果倒産。会社を経営していた望月ゆたかは自宅で予め用意をしておいたロープで妻の絹子夫人を絞殺した後、息子の哲也君と和保君を刺殺し、家中にガソリンを撒いた後にライターで火をつけ放火。車で逃げた後に、唐津市内の観音の滝へ身を投じて自殺を図り死亡した。兄の会社を共に支えていた弟の望月しげるは倒産後再就職が出来ず追い詰められた末に、唐津市内の七ツ釜に身を投じ投身自殺を図る。自殺を図った場所からは靴と遺書らしきものは発見できたが遺体は引き上げが出来ていない。七ツ釜に伝わる都市伝説では、身を投じたしげるの遺体は沖に流され、引き上げることは不可能だとされている。


「あんな洞窟で入り組んだところで沖に流され、遺体が引き上げられないことはありえない話だ。きっとまだ、あの洞窟の中に眠っていることだろう。都市伝説なんてデマの一つにしか過ぎない。」


そう思った山嵜はネットカフェを後にして家に帰ることにした。


しかしあの望月しげるの動画の内容がどうしても気になった山嵜はふらっとドライブがてらに七ツ釜に向かうことにした。現地に着いたのはちょうど16時をまわったころだった。


「七ツ釜、改めて見るけどやっぱり絶景だな。」


そう思い、海の下を眺めていた。

山嵜が絶景を堪能できるスポットに立つと、潮風の香りをゆっくりと味わいながら、水平線をじっと眺めていた。


「海は広いな~おっきいなあ~♪」


山嵜が海を見ながら思わず口ずさむと、下には断崖絶壁で誰もいないはずなのに、物音が聞こえてきた。山嵜が物音に気付き下を向いた。


すると、海のほうから白くて長い手がスーッと伸びてきて、山嵜の顔をロックオンするとそのまま海のほうへと吸い込まれるように落ちてしまった。

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