6. 今すぐ探しなさい ~王宮side~
その日、王宮の宮廷魔法士たちはざわついていた。それもそのはずだ。あのフローレンス王国第一王女のクリスティーナ様から直々に呼び出しを受けたからだ。しかも宮廷魔法士全員がだ。それは異様なことであり、誰もが何があったのかわからない状況であった。
「ごきげんよう。最近宮廷魔法士の仕事はどうですの?シャーロット女史?」
「あ、はい。日々精進し知識を蓄え、皆毎日滞りなく仕事をしております。」
と、シャーロットが答えると、クリスティーナ様は満足そうにうなずいた。そのまま視線を横にスライドさせていく。そして、あるところで視線を止めると、ニコッと笑った。
「そこのあなた。確かエレイナだったかしら?」
「あっはい!エレイナ=キャンベルです!クリスティーナ様!」
「そして横の彼…アストン=ナミル。あなた方は優秀と聞きます。」
「いえ。もったいないお言葉です。クリスティーナ様。」
エレイナとアストンは頭を深々と下げる。するとその様子を見てクリスティーナが言う。
「あら?頭は地面につけるべきではないのかしら?」
「えっ!?そ、それはどういう……」
と戸惑っていると、後ろで控えている従者の一人が言う。
「クリスティーナ様のおっしゃられる通りです。早くしなさい。」
「す、すみません……。」
二人は慌ててもう一度頭を下げた。それを見ていた他の宮廷魔法士たちがざわつく。しかしそんなことは気にせずクリスティーナは続けた。その表情にはどこか狂気じみた笑顔が浮かんでいた。
「さて。あなた方全員に聞きたいことがありますわ。私の親友アイリーンはどこに?せっかく会えるのを楽しみにしていたのですわよ?」
「クリスティーナ様。アイリーン=アドネスはこの国の禁書庫から古代文献を持ち出し解雇処分に致しました。このエレイナとアストンが目撃しております。」
そのシャーロットの言葉を聞いてクリスティーナは笑いそして言い放つ。
「何の冗談ですの?アイリーンが古代文献を持ち出す?そんなの絶対にありえませんわ。だってあの古代文献は偽物だとアイリーンは知っているのですから!」
クリスティーナの言葉を聞き全員がざわつき始める。なぜならクリスティーナはあの禁書庫の古代文献が全て偽物だと知っていたのだ。そしてそれを親友のアイリーンにうっかり話してしまっていたことを。
「それに彼女の魔法は優秀すぎる。彼女は天才よ。このフローレンス王国でも数えるくらいの実力者。そんな彼女を解雇?笑わせないで?さぁ説明してもらえますわよね?エレイナとアストン?」
クリスティーナは冷たい目をして話す。しかしすぐにいつも通りの表情に戻った。だが内心怒り狂っていた。
(私のかわいいアイリーンになんてことしてくれたのかしら!)
2人は無言のままだ。こんな形で嘘がバレるとは思っても見なかった。だからどうしていいかわからない様子であった。
「この私の質問にだんまり……。そうですか。ならシャーロット女史。その2人も解雇しなさい!」
「ちょ…」
「それは…」
「私に逆らうのですか?キャンベル家、ナミル家ごと潰してもいいんですわよ?」
クリスティーナの言葉には殺気がこもっており、逆らうことはできないと判断したシャーロットは渋々了承した。
「シャーロット女史。あなたもあなたよ。アイリーンの実力を考えればどっちが嘘を言っているかなど、すぐに分かるもの。地位に毒されましたわね?優秀な人材をなくしましたわ。次はありませんわよ。」
「申し訳ございません……。」
そしてシャーロット女史は黙る。ざわついていた周りの宮廷魔法士も黙っていく。それはこの国で最も偉大な魔法使いと名高い人物が、平民出身の宮廷魔法士1人のために叱咤されていたからだ。そしてクリスティーナは話を続ける。
「さて。私も鬼や悪魔じゃありません。ここからが本題よエレイナとアストン。あなた方は宮廷魔法士を今解雇された。もしアイリーンを探し出し私の前に連れ戻すことが出来たならこの件は不問にしましょう。」
「え?アイリーンを…」
「それは…いくらなんでも…」
「今すぐ探しなさい」
そしてクリスティーナの平手がエレイナとアストンの頬に炸裂する。
パンッ!! パンッ!! 乾いた音が響き渡る。あの時と同じ
「いい加減にしなさい。見苦しいわよあなたたち?あなたたちが出来ることはアイリーンを探すことだけですわ。あなたたちのような貴族が王族に口答えをする?身の程を知りなさいな。……でしたわよね?」
クリスティーナの目は笑っていなかった。ただ冷徹に見つめるだけ。まるで蛇に睨まれた蛙のようにエレイナとアストンは動けなくなる。その後、エレイナとアストンは王宮から出て行った。こうして2人は宮廷魔法士を解雇され、今まで味わったことのない屈辱と共にアイリーンを探すことになった。
そしてクリスティーナは部屋に戻り一人になると大きくため息をつく。そして独り言を言い始めた。
「あーあ。つまらないですわ。せっかくアイリーンと会えると思ったのに……。アイリーン貴方は今どこにいますの?」
その声に応えるものは誰もいない。クリスティーナは窓の外を見ながらまた一つため息をつくのだった。
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