3. 初仕事します
朝の光が窓から差し込む。心地の良い朝とは言えないけど、寝る場所があることに感謝だ。
私はフローレンス王宮の宮廷魔法士をクビになり、途中で出会った『なんでも屋』のエイミーに連れられて山奥の農村ピースフルで住み込みで働くことになった。
私はここで初めて朝を迎え支度をし朝食を食べにリビングに集まる。ここでは家事は分担でやっているみたい。私もいつかは回ってくるのか。まぁ最低限はできるから心配はしてないけども。
というかこんな農村にお客様や依頼なんか来るのか?それに私は何ができるのか。不安だ。そんな事を考えているとエイミーが私を見て話かけてくる。
「アイリーンどしたの?そんな傷んだラディッシュみたいな顔して?」
傷んだラディッシュみたいな顔って?何それ怖いんだけど!それにラディッシュだってもっとマシな例えがあるでしょうよ。傷んでるってことは腐りかけてるってことじゃないの!どんな顔よ!私が返事をする間もなく、エイミーは言葉を続ける。
「あっわかった!嫌いな食べ物あるんでしょ?」
「違うわよ!子供か私は。」
「じゃあどうしたのさ〜?」
この娘には悪意というものがないのだろうか?エイミーはテーブルの上にあったパンを口に放り込みながら喋る。
「ふぉんふぇふぃふぉうひゅったふぁい(それでなんで落ち込んでたの)?」
「ちゃんと飲み込んでから話しなさいよ!」
本当にこの子は大丈夫なのかしら?
「ゴクンッ!それでなんで落ち込んでるの?」
「落ち込んでたわけじゃない。ただ私に何ができるのかなって思って。」
すると今度は隣に座っていたレイダーさんとルーシーが口を開く。
「アイリーン。安心しろ。やることなんて沢山ある。お前さんには。立派な魔法の才能があるじゃないか。それを生かす仕事をこなせばいい。」
「そうよ。私たちは『なんでも屋』なんだから、やりたくないことはやらなければいいわ。どうせ誰かがやるし、誰もやらなければエイミーがやるんだから。」
「もう2人とも本当にパプリカみたいなこと言うよね!」
パプリカみたいなこと言うよね?意味がわかんないよ! でもそうだ。別に宮廷魔法士の仕事をしなくてもいいのだ。やりたいことをすればいい。
私は意味のわからないエイミーは放っておいて、2人になんでも屋の事を聞く。何か依頼があればとりあえずやりたい人がやるらしい。それでも誰もいなければエイミーがやる。
基本簡単な仕事が多いということだ。畑を荒らす魔物退治や害獣駆除などもあるようだ。その辺りなら私にもできそうな気がする。
「さて私はお店の方にいこうかしらね。あと片付けお願いしてもいいかしらね。ミリーナとロイド」
「うん。やっておくねルーシーちゃん」
「はい。いってらっしゃい」
そういうとルーシーはお店に向かった。まぁこの家の横なんだけどね。そしてミリーナは食器類を持ってキッチンに向かう。そしてロイドがみんなに声をかける。こうして初日の私のなんでも屋としての生活が始まった。
◇◇◇
開店しているお店で私はお客さんの来ない店内で掃除をしたり、品出しをしている。もう何度目だろう……この窓を拭くのは?とにかくやることがこれしかない。私がカウンターに目をやると椅子に座ってルーシーがうとうとしている。大丈夫なの?
まさかこれで今日が終わるのか?そんなことを考えているとお店の扉が開く音が聞こえた。
カランカラン♪ これは初めてのお客様だ!そう思った私は入り口の方を見るとそこには見たくないあの野菜娘がいた。
「なんだ。エイミーじゃない?どうしたの?」
「いらっしゃいませ。でしょアイリーン?まったく挨拶もできないの?まったく!」
うっ……確かにそう言われたらそうだけどさ。私だって礼儀作法くらい知ってるわよ! そもそもあなたが言うな!この野菜娘!心の中で悪態をつく。すると椅子に座って半分寝ていたルーシーが聞く。
「ふわあ。なんか用事じゃないのエイミー?」
「あっ!そうそう一大事なんだよ!」
一大事?こんな何もないのどかなこの村で何があるというんだろう? 私は不思議そうな顔をして聞いていた。するとエイミーは私の方を見て話す。
「あっアイリーン。力を貸して!村の広場に来て!」
「え?ちょっと!痛いって!エイミーあなたいつも馬鹿力なのよ!」
エイミーは私の腕を掴んで無理やり歩き出す。一体何事なのだろうか?とりあえず私は黙ってエイミーに引っ張られていく。
そのまま少し歩き、私とエイミーは村の中心にある広場にやってきた。ここは井戸があり、水汲み場にもなっている。他にも子供達がよく遊んでいる場所でもある。そんな場所になぜ私を連れてきたのか。そこには1人の男性がいた。
「おじさんお待たせ!」
「おおエイミーちゃん。その人がなんとかしてくれるのか?」
「うん!もちろん『なんでも屋』に任せてね!」
何も聞かされていないのだが?ここは働き方がブラックですか?すると男性が私に向かって話す。
「あそこに大きな貯水タンクが2つあるだろ?最近雨が降らなくて、この村の水がなくなりつつあるんだ。助けてほしい。」
なるほど。水を運んで来てくれということか。それならばできるかもしれない。
「水場まではどのくらい離れてるの?」
「かなり山を下らないといけない。だから困ってるんだ。大人の男複数人いても水場に行って戻ってを繰り返して一週間はかかる。」
「人手は多い方がいいよね?私と一緒に運ぼう!100往復位すればイケるって!トマトみたいにパパっとやっちゃお!」
はぁ!?今なんて言った?100往復?しかもトマトのようにってどういうことよ!でもやるしかなさそうだ。でも待って?私は周りを確認して地面を触る。なるほど。これならいけるかもね。凄くやる気になっているエイミーに私は伝える。
「エイミー張り切ってるところ申し訳ないんだけど。レイダーさんを呼んできてくれない?あの貯水タンクに水を貯めるわ。ついでにそこの井戸、あとはそこら辺にある水路にも水を貯めてあげる。魔法でね。」
これが私の初仕事になるのか。今まで魔法で人助けをしたことはないし役に立てるのなら悪い気はしないな。自分のやりたいことか。そこには『なんでも屋』も悪くないなと思い始める私がいたのだった。
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