9. 泊まる場所作ります
私は今日はお店にいる。そして変わらず何度も何度も同じ窓をいつも通り綺麗に拭いている。この窓、拭きすぎてなくならないかしら?そしてカウンターを見るとルーシーがヨダレをたらしながら昼寝をしている。まぁこれもいつも通りだけど。
私が宮廷魔法士をクビになり、この農村ピースフルに来て『なんでも屋』で働くことになって一週間がたつ。私がこのお店にいる間にお客様が来たことは1度もない。というかドアすら開いていない気がする……。そんな事を考えているとそのドアが開く。私は初めてのお客様へ満面の笑みを浮かべ迎えいれる。
「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」
「…………あー」
「はい?」
その人は私を見て困ったような顔をしている。何か変なところがあるのだろうかと自分の格好を確認するが特におかしいところはないと思う。もしかして顔?私の笑顔が変だからそんな表情になっているのかしら!?
「えっと……どうされました?」
「えっ……あー……その……」
「はい?」
何だかさっきから要領を得ない返事で困惑してしまう。やっぱりさっきの私の顔が原因なのかしら……。
「とりあえず中に入って下さいね」
そう言って店内へ案内すると何故か驚いたように目を見開いている。
「どうかしましたか?」
「いや珍しいものがたくさんありますね、少し興味があっただけなので気にしないでください」
「今日はご購入ですか?それともご依頼ですか?」
「依頼……になりますかね。」
本当に不思議な人だわ。それにしてもこんな山奥の村に一体どんな用事があって来たんだろう。まさか本当にお客様が来るなんて思ってなかったから何も用意していないし。でも一応お茶ぐらい出した方がいいかな。
私は台所へ行きティーポットに水を入れて火にかける。その間に茶葉を用意しているとルーシーが目を覚ます。
「うぅ~ん。おはようアイリーン。」
「ルーシー。お客様来てるよ!」
ルーシーは眠たそうな目を擦りながら店の方へ行く。
その男性はキョロキョロと店内を見回していた。きっと珍しいものばかり置いてあるからだろう。私も初めてここに来た時は同じようにキョロキョロしたものだ。準備が終わるとそれを察してくれたのかこちらに来る。そしてカウンターの前にあるイスに座ると早速本題に入った。
その話によると彼は旅の途中でここに寄ったらしいのだがお金がほとんど無いため街では泊まる場所がないそうだ。そこで山を歩いていたらここに来た。なんとかしてくれないかと言うことだ。
それは確かに大変だ。私達のような村では宿なんてないし民家を貸してもらおうにも部屋が余っているわけでもない。そもそも空き家なんてあったかどうかわからないけど。それを聞いたルーシーはその男性に話す。
「わかりました。とりあえず代金はいりません。用意しますので。」
「え!?いいのですか!?」
「もちろんです!ただ寝泊まりする場所ですからね。まぁ『なんでも屋』に任せてください。早速準備させていただきますね?」
そういうとルーシーはどこかへ行ってしまった。この村に寝泊まりする場所があったのか。私はお茶を入れるために席を外すと、男性が話しかけてくる。
「いい村ですね。ここは。」
「ありがとうございます。と言っても私も最近来たばかりなんですけど。前の職場をクビになって。」
「そうだったんですね。まぁ私も同じですけどね。」
彼の名前はサイラスさん。以前は学者をしていていたが、論文を否定され学会から追い出されてしまったらしい。彼も色々苦労しているみたいだ。少し親近感が湧く。
そんな話をしているうちにルーシーが帰ってくる。その手には斧や木材などを抱えていた。
「お待たせ!さぁやりましょう!」
「やるって……まさか?」
「当たり前でしょ!家を作るわよ!ほらあなたも!」
はい?この人は何を言い出すのでしょうか?普通ならありえないでしょう。私とサイラスさんはルーシーに無理やり連れられて店を出る。そして村の少し奥の開けた場所に行くと、そこにはエイミーと村の男手が集まっていた。
「あっルーシー!みんな呼んでおいたよ!さぁ家を作ろう!」
「おう!兄ちゃんの家を作るぞ!」
「でっかい家建ててやるからな!楽しみにしてな!」
すると村の男たちは鍬を取り出し地面を掘り始める。えぇ……嘘ぉ……。本気で作るつもりなの……?でもみんなの姿を見ていると、とても楽しそうで羨ましく思う。本当に困った人を助けたいと言う気持ちが伝わってくる。
「ほらほらアイリーンも手伝ってよ!」
「……仕方ないわね。あの木材をそこに並べてちょうだい。斧でやってたら時間がかかるわ。おじさん!必要な木材の長さを教えて!」
私は必要な木材の長さと本数を聞き、風魔法ウインドカッターで大量に切り揃えていく。それが終わり、ふぅーっと息を吐き額の汗を拭う。
「おお!さすがはアイリーン!」
「助かったぜ!これならすぐ終わりそうだ!」
私は笑みを浮かべ次の作業に入ろうとしているとエイミーが私を見てニヤニヤしている。
「……なによ?」
「アイリーン。凄くいい顔してる!取れたてのラディッシュみたい!」
だからラディッシュで例えるのやめてくれないかしら……。でも確かに今自分がどんな顔をしているか分からないくらい楽しい。
それから数時間かけて家が完成した。途中から私やサイラスさんも建てることに加わり、予定よりも早く完成させることができた。
「ありがとうみんな助かったわ!」
「いや気にするなよルーシー!」
「そうそう困った時はお互い様だろ」
「兄ちゃん。ゆっくり休んでくれな!好きなだけ使ってくれ!」
本当にこの村の人たちはいい人だ。こんな人たちに囲まれて暮らしていると思うと私も凄く嬉しくなる。そんな事を思っているとサイラスさんがルーシーに話す。
「あの…ありがとうございます!こんな家まで建ててくれるなんて…」
「ええ。あなたが好きなだけ使ってくれればいいわ。明日出て行っても、ずっとここにいてもいい。それに私たちは『なんでも屋』だからなんでもやるのよ。私たちに出来ないことはない!なんちゃってね?」
そうウインクするルーシー。サイラスさんは涙を流しながら頭を下げる。そしてみんなは解散していく。そして店に戻り私とルーシーは二人で片付けをしているとルーシーが話しかけてきた。
「ねぇアイリーン。この村、ピースフルのみんなって凄くいい人たちよね?」
「そうね。というかルーシーの方が私より長くこの村にいるでしょ?」
「そうだけど……。でもね。私ここがどんどん好きになっていく。ピースフルに来てから毎日が楽しくて、今日も誰かのために何かできたって思えることが嬉しいんだ。」
ルーシーは笑いながらも真剣な眼差しで私を見る。私はそんなルーシーを見ながら答える。
「あなたはいつも昼寝してるけどね?まぁそうね。私もこの村が好きよ。」
「そう。それなら良かったわ。あぁ〜!なんかまた眠くなってきた……ごめんちょっと寝させて……おやすみ〜」
ルーシーはそういうとその場で横になり眠りにつく。そんなルーシーを見た私は呆れつつも、そっと毛布をかけてあげる。私はルーシーが起きるまで横にいてあげることにしたのだった。
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