4. 水不足解消します
エイミーはレイダーさんを呼んでくる。私はそのまま合流し、2人と共に山を少し登り始める。しばらくすると、かなり開けた場所に出た。私は大きく深呼吸する。うん。ここならマナもあるしイケるだろう。
「アイリーン!水場は山の上じゃないよ?」
「知ってるわよ。あのレイダーさん、あの岩持ち上がりますか?」
「ああ?あれか、ちょっと待っててくれ」
するとレイダーさんは近くにあった大きな岩を持ち上げる。軽く持ち上げたように見えたが、かなりの重さがあるはずだ。本当に持ち上げたわ……すごい力持ちね……。
「重さはどうですか?」
「問題ない。あと少し重いのも持てる。」
「分かりました。さて準備を始めるわ。少し離れていて」
私は解析魔法『サーチ』でその岩を調べてみる。うん。やっぱり思った通りだ。この山全体に薄くだが魔力が通っているようだ。これなら、あの魔法も使えるだろう。
私が準備を始めると、後ろから2人が覗き込んでくる。まずは地面に手をついて魔力を流し込む。そして、その手を中心に直径1m程の円を描くように魔法陣を錬成していく。最後に魔法を発動する。するとさっきの岩と同じ大きさ、質量の水魔法の大玉がその魔法陣から浮かび上がってくる。
「おぉー!!凄い!!」
「これは……これがアイリーンの魔法なのか?」
2人は驚いているようだが、説明する暇はない。今のうちに水球を大きくしてしまおう。さらに、5倍くらいの大きさにする。うん。これぐらいあれば大丈夫かな。
「すごいすごい!大きくなったよ!?」
「さてこれを運びましょう。私はあの量から考えればこれをあと10個ほど作る必要があるから、2人は先に村へ運んでおいてくれないかしら?」
「運ぶって?こんなの持てないよ?」
「大丈夫。割れないように風の魔力の膜でおおっているから。転がしても問題ないし、レイダーさんは持てるように質量を調整してますから。」
「すごいな。わかった。エイミー運ぶぞ!」
2人はその水魔法の大玉を運び始める。私はその後も魔法で水をどんどん作り出していく。30分後やっと最後の一つを作り終えると、何回か往復してくれたレイダーさんが戻ってきてそれを村に運ぶことにする。
「これが最後か?」
「はい。これは私が魔法で持っていきますよ。運搬ありがとうございます。」
そして村に戻る途中、レイダーさんは私に聞いてくる。
「アイリーンの魔法は凄いな。まさかこれ程とはな。さすがは元宮廷魔法士。」
「そんな事ないですよ。」
そういえば、私の魔法についてあまり話していなかったっけ。まぁいいや。とりあえず今は水を運ぶことにしよう。
「アイリーン。お前さんは『なんでも屋』の事をどう思う?」
「え?どうって?」
突然何を言ってるんだろう。なんの話?レイダーさんの質問の意図がわからず聞き返す。しかし、その答えを聞く前に村は見えてきた。私たちは村の広場へと向かう。するとそこには、村長をはじめ村人たちが大勢待っていた。私が魔法で作った水魔法の大玉を珍しそうに見ている。
「あっアイリーン!早く早く!まったく待ちくたびれたよ!それじゃこの水魔法の大玉を貯水タンクにコーンのようにやっちゃって!」
コーンのようにやる?あーなるほど。確かに水の塊を転がすより、筒状の方が楽だもんね。……とか無理やり自分が納得するように、こじつけたけど。どうせ意味はないよこの野菜娘の言葉なんて。
私はその水魔法の大玉を魔法で運び貯水タンクに入れ始める。そして満タンになり次のタンク、井戸、水路へ水を与えていく。結局10個の大玉を全部入れ終わった時には日が落ち始めていた。もう夕方か……。でもこれで一安心だ。
それを見た村のみんなに感謝された。本当に良かった。今日は疲れた。特に魔法を使いすぎた気がする。帰ったらすぐに寝よう。
そう思いながら帰路につく。帰り道、レイダーさんとエイミーはずっと私の方を見ていた。何かやっちゃったのかしら……。家に帰ると、夕食の準備が出来ていた。今日のメニューは、パンとスープとサラダ、それに肉のソテーだった。
「わぁ美味しそうね。今日は何度も魔法を使ってお腹すいちゃったわ。」
「アイリーンちゃんお疲れ様!聞いたよ?巨大な水の玉を魔法で作ったんでしょ?凄いなー。」
ミリーナにそう言われる。悪い気は正直しない。少し照れてしまうが、素直に嬉しかった。
食事が終わると、自分の部屋に戻ってベットに飛び込む。はぁー……今日も色々あり過ぎた。明日は何もないといいなー。
そう思って目を閉じようとした時、ドアがノックされる。誰だろう。ドアを開けるとそこにはエイミーがいた。
「あれエイミーどうしたの?」
「もう!ひどいじゃないアイリーン。あんなパプリカみたいなことして!どういうつもりなの!」
いきなり怒られる。パプリカみたいなこと…私怒られてるんだよね?一体なんのことだろう。
「あんな凄い魔法使えるのにおかしいよ!宮廷魔法士をクビになるのは!」
「エイミー…。私は本当にクビになったの。それは私が弱いからじゃない。私が平民出身だからなの。だから…」
「え?そうなんだ。パプリカみたいなことしてないんだね?良かった。それならいいや!お休みなさいアイリーン!」
すると勢いよくエイミーは部屋を出ていった。今のは何を言いたかったのだろうか。まぁいいか。とにかく今は眠たい。そのまま眠りについた。
翌日、朝起きると身体が痛いしだるい。まぁ昨日魔法を使いすぎてしまったからな。しょうがない。
身支度を整えてリビングへ行く。するとすでにレイダーさんが朝食を食べていた。挨拶をして私も席に着く。するといつも通りミリーナが話しかけてくる。
「ねぇねぇ。アイリーンちゃん。もうここの生活慣れた?」
「まだ今日で2日目だよ?正直わからないかな。」
「そっかー。でもすぐに慣れると思うな。なんと言ってもこの村は良いところだし。みんな優しいし、エイミーのお野菜や果物は美味しいし。」
確かにこの村の人達はとても優しくしてくれる。それに、私が宮廷魔法士だと知った後でも、何も変わらず接してくれている。最初は驚いたけど、今となってはこの村の一員になれたら嬉しいと思っている。そんな事を考えているとレイダーさんが私に話しかける。
「アイリーン。お前さん今日も店だろ?ルーシーに任せて、オレに付き合ってくれないか?」
「私ですか?何か私で役に立ちますか?力には自信ありませんですけど……というより、そもそもどこに行くんでしょうか?」
「昨日の山奥の場所だ。」
えっ!?︎またあの場所に行くの? そして準備をして、私たちは村の外に出てきた。外に出るなりレイダーさんは私の方を見て言う。
「さて、山狩りに行こうか」
山狩り?それって魔物討伐では?そんな不安を抱え私はレイダーさんと共に歩いていくのだった。
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