8. 助け合います
私はミリーナに連れられてリストの市場にある、外観が凄いボロの店の中に入っていく。大丈夫ここ?エイミーの言葉を借りるとパプリカみたいなことにならない?
店内は外装と打って変わって綺麗で小奇麗な内装だ。棚には薬草やハーブ、魔力水などのポーション作りの素材が置かれていた。だが、置いてある商品にはどこか雑多さがあり、それが逆にこの店がいかに変かを表しているようだ。
「こんにちは!おばちゃん!」
「あら、お嬢ちゃんじゃないかい。今日は何をお求めだい?ん?ほう……そっちのお嬢さんは初めて見る顔だね?」
「今日は新しい『なんでも屋』のメンバーも一緒なんだ!」
「あ、どうも。初めまして」
ミリーナは店主らしき老婆に挨拶すると、私を手招きして奥へと進んでいく。そしてカウンターの奥の部屋に入るとそこには大きなテーブルが置かれており、その上に置かれている様々な道具や材料に目を向ける。そこには乾燥させた草花や葉っぱなどが無造作に置かれており、中には本などで見覚えのある物もあった。
「さて。始めようかな!」
「ここで薬を作るの?」
「うん!ここなら余計なものがないから集中できるしね!それに……ここには色々な人が来るんだ。だから色々と勉強になるんだよ!」
そう言うとミリーナは鞄の中から魔法陣が描かれた調合釜を取り出す。なるほど。あの調合釜を使って調合するのか……。でもあれって結構複雑だし、やり方が古いような気もする。
まぁいいか。私が気にすることでもないし、以前本で読んだことはあるけど、目の前で薬を作るのを見るなんて初めてだし貴重な経験だから。ゆっくり見せてもらおう。
ミリーナは目の前に置かれている乾燥した薬草を取り出し、慣れた手つきですり鉢に入れてゴリゴリし始める。その光景を見て私は思わず目を丸くした。え?何今のスピード!?私の知ってる作り方じゃないんだけど!?
そんなことを思っているうちにどんどんペースト状の物が溜まっていく。それが終わると今度は鍋に水を張り火にかける。沸騰してきたところで先ほどの薬草を入れて煮込む。すると徐々に色が変わり始めてきた。
しばらくして完成したのか、瓶に移し替えて蓋をする。それを見ていた私は無意識に拍手を送っていた。
「ん?もう大袈裟だなぁアイリーンちゃんは。」
「いや。私が知っているやり方じゃなかったから…単純に感銘を受けたのよ」
私がそう言うとミリーナは頬を掻きながら照れ笑いを浮かべる。それからミリーナは色々な薬を作っていった。薬を作るその姿はとても楽しそうだった。
「よしっと。これで今日の分は終わりかな」
「すごいわね。こんな短時間で終わるなんて……」
「うーん。確かに手間はかかるけど、この作業自体はそこまで難しくないんだよ?必要なものはここに全部揃っているしさ」
ミリーナは部屋の隅に置いてあった本を手に取り、パラパラ捲り始める。この本もポーションに関する本なのかしら? 私がそんなことを考えていると、ミリーナはあるページを開きこちらに見せてくる。そこには何かの絵が描かれていて、文字の下に説明文が添えられていた。
【薬草:主にポーションの材料となる植物。種類によって回復量が変わる】
へぇ。これが薬草なんだ。絵を見ると本当に雑草にしか見えない。これを集めて乾燥させて、更に細かく砕いて水と一緒に煮込めば良いわけね。ふむふむ。
「あたしさ。治癒魔法は使えるけど、もちろん魔力量はあるし、私の魔力量じゃみんなの事治せないから、ここで薬やポーション作りの勉強してるんだ!アイリーンちゃんも良かったら勉強してみたら?魔法使えるんだし。」
「ははっ。私の精霊魔法とミリーナの治癒魔法は原理が違うわよ。それにしてもミリーナは若いのに偉いわね。」
「そんなことないって。ありがとーおばちゃん。はい、これ今日の分ね」
「毎度あり。またおいで」
ミリーナはその作った薬を何個かその老婆に渡して店を出る。
「あー楽しかったね!」
「代金払わなくて良かったの?」
「え?あーあのお店はね、農村ピースフルみたいにみんなが助け合いながら運営しているお店なんだよ。あのお店に素材を持って来る人、薬を作る人、そしてその薬を買う人。」
つまりお金ではなく、何かしらの作物や収穫物を納品したり、代わりに何かを受け取ったりしているという事か。
「だから私はあのお店が好きなんだぁ!アイリーンちゃんも気にいってくれるといいなぁ。」
「まだ1人は怖いかも。あのお店は。ははっ」
そして作った薬を持って家に帰るためにまた山を登っていく。日はまだ高い位置にあるため、このまま帰ることにしたのだ。道中ではミリーナといろいろな話をした。彼女の話は興味深く、楽しい時間を過ごした。
村に着くとミリーナは村中をまわり、作った薬を配っていく。
「おじさん。これこの前言ってた膝の痛みに効果ある薬!」
「ミリーナちゃん。いつもありがとな。これ今日山で狩ってきたんだ、食べてくれ。」
「わぁ美味しそうなお肉!レイダー君に焼いてもらおう。ありがとー。」
一人一人問診をしながらその人にあった薬を渡す。ミリーナは普段『お喋り』をしていると私に言っていたけど、違ったこれが彼女がやっていたことだったんだ。
私も手伝いながら薬を渡していく。村の人たちは凄い笑顔だった。きっと彼女の存在が村の人にとって心の支えになっているんだろう。
「これで全部配ったかしら?」
「あっこれが最後だ!」
ミリーナは私にポーションらしきものを差し出す。それは綺麗な赤色をしており、見ているだけで気持ちが落ち着く気がする。
「これはアイリーンちゃんに。今日朝からずっと一緒にいたけど少し疲れてるね。ここに来てから魔法をいっぱい使ってるから、魔力が完全に回復してないみたい。マジックポーションだから飲んで!」
あら……私も問診されてたのか……私はそれを受け取って一気に飲み干す。すると体がポカポカしてくる感じがする。なんだか心地よい気分になってくる。
「美味しい。ありがとうミリーナ」
「本当!?良かったぁ!」
そのミリーナの笑顔に私も嬉しくなる。そうだ。私は今楽しいと感じている。それがとても嬉しい。
王宮から追放され宮廷魔法士をクビになった私はあの時エイミーに拾われこの農村ピースフルにきた。最初は正直不安しかなかったけれど、今はすごく楽しくて幸せだ。
これからもこの村で生きていき、もっとたくさんの人のために私の魔法を使いたい。そう思えるくらいに私はこの場所が好きになっていたのだった。
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