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「隣のクラスの赤森さんだ」
「ため息が出るほどの美女よねえ」
「あの憂いある瞳、見て。なにを考えてるのかなぁ」
「ふふふ。きっとあたしたち凡人には理解ができない高尚なことよ……」
私が1Aの教室を覗いて、なにを考えてるか。ですって?
い を り ん 超 尊 い い い い 。
先ほどは少々取り乱してしまったけれど、きちんと事実確認を集めてみれば瑣末なこと。
いをりんは最近、催眠術ができるようになって部活を作ったっていうのよ。そしてあの女の子はただの部員。
朝のもおそらく催眠術で、付き合ってるとかそういうのじゃないみたい……ってなにそれ大層羨ましい部活ね!?
でも私も部活に入れば、ワンチャンいをりくんとのイチャイチャが叶うとわかったのだけれど、どうやってあそこに近づいたらいいのでしょう。悩ましいものだわ。
それともうひとつの懸念が、京村行人も関わっているということ。私、あの非常識人間だけはすごく苦手なのよね……。はぁ。
「赤森さん、誰かに用事?」
入り口からこっそりと、けれど穴があくほど覗いていると、親切なA組の女子に声をかけられてしまった。
「いえ。その……。あ、あの方たちって、なにをしているのかなって……」
「ああ、日葉たち? 催眠術してるんだって! 怪しいよねー」
「そ、そう。ちょっとだけ興味があるわね……」
「え、そうなの? じゃあ呼んであげるよ! にちはー!」
呼んでくれたおかげで日葉さんが私の方を見たのと同時に、はい、いをりんも私を視界に入れました。もういつ死んでもいい。
「わあ、拝慈だー!」
手を振りながら、わざわざ日葉さんが私のところまで来てくれる。
彼女とは中学時代クラスが一緒になったことがあって、会話を交わしたこともある。あの頃と変わらず、人懐っこくていつも人の中心にいて。かわいい。
「拝慈、催眠術に興味あったんだ?」
「最近、脳科学の本を読んでいると、そのようなことがチラッと……本当にチラリと出てきたものだから。あなたたちは似たような研究をしているのでしょう?」
「あたしたちはそんな研究って大げさなものじゃないよー! ってか、拝慈も催眠術やってみようよ? ねっ!」
「え、え?」
「神多くーん! 拝慈がNO科学?に興味があるんだってー!」
日葉さんに手を引かれて、教室の中に連れ込まれる。
意外な展開に戸惑ったけど、背中を押されてグループの中に立たされた私は、すぐに顔を引き締めた。
「みんなー、隣のクラスの赤森拝慈! って、中学も一緒だったし知ってるかな!」
みんなに紹介してくれる日葉さんに合わせて会釈する。
いをりくんと京村くんは同じ学校だったけど、小さい子だけは別の中学ね。
「おー、知ってる知ってる! ってかまた雰囲気変わった?」
「…………」
別に京村くんが私のことを知ろうが知るまいがどうでもいいのだけど。
いをりくんは……やっぱり覚えてなさそうね。
「神ちゃん、いんじゃね?」
京村くんがいをりくんを肘でつつくと、黙っていた彼の目に、ふっと光が灯った。
「……だったら放課後、来る?」
!?!?
えっ、今、いをりんに直アポされた……!?
これって実質デートじゃない?
あとで、て、て、手帳に書いておかなければ。
動揺しているのを気取られないように、胸ポケットから生徒手帳を出して目の前で広げる。
「ふぅ、私も忙しいのだけど……。今日の放課後なら、偶然空いてるわね。ではお邪魔させていただきます(鼻血出そうーーーー!)」
部のみなさんが、楽しみだねとはしゃいでいた。
私もはしゃぎたかった。
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