1日で催眠術師になったのですが ヤラセじゃないかまだ疑っています

催眠術なんてあるわけない!のに、なんでみんなかかってるんだよ…(困惑)
アサミカナエ
アサミカナエ

14話・5

公開日時: 2021年3月26日(金) 11:11
文字数:2,164

 見つかったら連絡を取ることにして、みんなで手分けして日葉たちを追うことにした。

 校内にはいるはずだし、5人で探せばすぐに見つかるだろう。

 

 明夢は学生棟、拝慈は中庭と学食、自販機周り、佐々崎は教務棟でキョージンがプールと体育館。

 そしておれは階段を降りて、裏庭へ向かう。

 プール館とは逆で、先生たちの駐車場がある裏庭は人気ひとけがない。

 いちばん望み薄な場所だと思っていたのに、まさかの特徴的なツインテールの後ろ姿が視界に飛び込んできた。



「どうして!?」



 声に驚いて思わず車の陰に身を隠す。

 叫んだのは上田。

 部室に飛び込んで来たときのように、かなり興奮していた。

 完全に声をかけそびれた。

 あんまり立ち聞きはしたくないんだけどな……。

 中学のときにあったんだよ。おれがいないと思っておれの陰口をまんべんなく言われていたことが。あのときも、出るに出られなくてつらかった。

 でもなぁ……。

 体格差……はあんまりなさそうだけど、我を忘れた人の力は怖い。

 日葉に危険が及ばないように、少し様子を見とくか。



「あっちの陰キャと僕と、なにが違うんですか! 手前味噌ながら、阿南さんのことなら僕の方が思いやりありますよ!」


「だから、あたしは陰キャだから優しくしているわけじゃないんだけどー」


「そんなのイミフだ! 陰キャと仲良くして阿南さんになんの得があるんですか!? いやないっ!」



 あいつ自虐エグいな。

 おれでもそこまで言わないぞ……。



「もー、陰キャとか陽キャとか、決めつけるのやめよ? あたし、友だちを損得で考えたことないよ!」



 日葉の言葉は力強かった。

 しかも怒っているんじゃない。

 失礼な上田に対しても落ち着いて、敬意を払う声音だった。



「上田くんって、すぐに自分のことへりくだるじゃん。なんか友だちに似てるんだよね。あたしはフツーに仲良くしたいのに、心が遠く感じて寂しくなるよ」



 どきりと心臓がはねる。

 それって……。



「上田くんと仲良くしようって思ったのも、話していておもしろいし。それに、あたしの頑張りを、認めてくれてうれしかったからだよ! 陽キャとかスポーツができるとか関係なくて、上田くんだから話したいんだよ?」


「ぼぼぼっぼおぼぼぼぼぼ!!?」



 ちょ。大丈夫かあいつ。

 壊れやすすぎるだろ……。

 車の陰から身を乗り出して、いつ出ていくかタイミングを伺う。



「ねね。上田くんが併部をやめるように言いに来てくれたのも、あたしのためを思ってだよね? でも心配しないで。あたし無理するの無理な人だから!」



 屈託なく日葉が笑い、上田は死にそうな顔をしていた。



「ううう、そんな……。僕は阿南さんのこと一番にわかっているはずだったのに……」


「あははー。まだまだ甘いなー?」


「……怒らないんですか? 僕のこと」


「え、どして? だって100%善意なんでしょ。そんなの怒るわけないよ」


「でもあの人たち、阿南さんのこと怒って追い出しましたよ……」


「あー。まーそれは、そもそもあたしが悪いし。上田くんが気にすることじゃないんだよ」



 ……。

 一歩踏み出すと、ザッと砂利が音を立てた。



「え。いをりくんっ!?」



 弾けるように振り向いた日葉は、おれがいることに驚いていた。

 ハッとして手を後ろに隠して、顔を緊張させる。

 隠す前の一瞬。

 彼女の手が震えているのを見てしまい、胸が痛んだ。



「あの、あたし、その……」



 日葉の元気な声が一転して、不安に震えた。

 ……おれのせいで。

 だからおれは、どうしても彼女に伝えないといけない。



「日葉。さっき、勝手なこと言ってごめん」


「そんなことっ」


「顧問に言った言葉がどんなだったかは知らないけど。おれたちと部活をするための言い訳だってわかってる。おれが日葉の立場でもそうすると思うし……」



 日葉は首を横に振る。



「まさか。いをりくんならあたしみたいにひどいこと言わないよー」



 自虐っぽく笑って、俯いてしまった。

 おれは一歩一歩、砂利を踏む。



「ずっと、苦しかったよな……。日葉にだけ言いたくないことを言わせてしまった。気づかなくて、本当にごめん」


「えっ、なんで……。悪いのはあたしだよ」


「部活に誘ったくせに、おれたちは何もフォローをしていなかった。日葉が顧問を納得させるために、短い時間のなかで考えた最適な言い訳がそうだったんだろ?」



 おれたちが無理矢理頼み込んで部活に入ってもらったのに。

 そのやり方がどうだったかを責めるのは、見当違いすぎた。



「あははー。悪いのはあたしの……頭だってバレちゃった」



 でも、彼女は言い訳ひとつすることなく、身を引こうとしたんだ——。


 手を伸ばすと日葉に届く距離まで近づいて、おれは足を止める。



「おれたちとの部活を大事に考えてくれてたのに、勝手に距離を感じていてごめん」


「——っ!」



 彼女が息を詰めるのがわかった。



「もっと日葉のこと知ろうとしていれば、日葉だけに後ろめたい思いを抱えさせることはなかったのに。だから日葉がなんと言おうと、おれが悪い」


「ちが……」


「さっきは好きにしたらいいって言ったけど、それでもおれは……」



 喉がひりひりする。

 拳を握りしめて、小さく息を吸う。

 また黒歴史を重ねることになるかもな……。

 それが嫌で、今まで来る者拒んで去る者追わずをポリシーとしていたんだし。

 けどさ。



「日葉は、おれたちと一緒にいて欲しい」



 ここでなにもしないで彼女を手放す方が、おれにとって黒歴史だと思ってしまったから。

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