映っていたのは圦本を催眠に入らせている動画だった。
「これ見て! こないだの圦本の催眠、少し編集してみたんよね」
すっと画面の中の圦本が目を開く。
『す、すごいね、どうしてだろ……喋るのがこわくない!』
そう言って涙を浮かべる姿に、また少し目頭が熱くなる。
「こういうドキュメンタリーチックなストーリー仕立てにすれば、共感もあるし、催眠術に興味を持つ人も増えると思うんだよ。真面目でちょっと小っ恥ずかしいけど、高校生らしいエモさは今しかできないコンテンツだ。催眠術をただのエンタメにせず、未知の多い世界について、検証していくんだよ、俺たちが!」
キョージンが思いのほか強く訴えてくる。ただの暇つぶしで言ってると思っていたから、割と考えていることに驚いた。
もういちど動画に目を落とす。圦本が阿南と楽しそうに話しているシーンだった。
「……あ、あのね、あたしみたいにコンプレックスで悩んでいる子って多いと思う。いろんな人の悩みを、神多くんが解決してあげられるのって、すごいことなのかなって」
催眠をかけなければ喋れない圦本が、声を震わせながらも必死に自分の言葉で訴えてくる。
「あたしは、自分がやってみなかったら信じることもなかったし、新しい世界知った感じで単純におもしろいよ。かかった側の感想とかも言えるし! ね、みんなでやってみよっ。新雪は最初に踏もうよー!」
阿南が腕を取って、上目遣いで揺らしてくる。
だからあんたは気安く触らないでください男はドキドキするから。
「神ちゃん、男を見せるときよ!」
キョージンが正面から詰めてきた。
いや……だって普通にまだ催眠術とか信用しきってないし、いちばん嫌いな不思議系の世界に足を突っ込んでる自分に違和感がある。
おれは本当に非科学的な話は嫌いなんだ。
占いもマジックも霊の世界も子どもだましで、それを楽しく受け入れられる心も持たないくらいアレルギーがある。
だけど、一体これがなんなのか。
どうしておれが今のところは使えているのか……。
まだ、わからないことだらけで。
ともすると否定するだけの素材が揃うまでは、付き合うしかないのかもしれない……。
「はあ。わかった。やってみるよ……」
諦めて両手を上げて降参の姿勢を見せると、わあ!と、みんなが手をタッチし合ってよろこぶ。ついでにおれにもハイタッチされたけど、そういうあれで上げてはなかったんだけど……。
……まったく。と、ひとり苦笑する。
こんなぼっちの陰キャと絡むのが、なにがそんなにうれしいんだか……。
でも……。
なぜかそんな彼、彼女らのことが、不思議と面倒だとは思わなかった。
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