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放課後、早速全員で心の教室に揃った。
阿南も今後は心理研究部の活動日のみ、水泳部の前に少しだけ参加できるように話をつけてきたらしい。
とてつもなく疲れた顔をしていたので、話はとんとん拍子とはいかなかったのだろうが。
そして心理研究部の活動初日にも関わらず、我らが顧問の一ノ瀬先生は「あー、今日はちょっと、ごめんなさい」と帰ってしまった。理由は言わなかったが、単純に面倒だったんだろうね。
「そいじゃ、アイチューブをする前にチャンネル名とあいさつを決めよう!」
まるで我が部屋かのように、ソファにどっしりとかけたキョージンが進行役を務める。
「チャンネル名かぁ。『催眠術』は入れたいよね!」
「お〜、わかりやすいねぇ〜」
意外にも女子がしっかりと意見を言ってくれている。
わぁよかった……。これでいやいや来てくれているとかだと、心が持たないよ。
「当たり前のことを言うな! 時間の無駄だ!」
「アホか、あたりが強すぎるわ」
思わずキョージンの後ろ頭をはたいた。せっかく協力しようと好意的にテンション上げてくれている人たちに対して、こいつは人の心がないんか?
「ってて……。チャンネル名はロジックがあるはずだからそれを研究して決めるとして、女子に期待してるのはあいさつのほうだ」
「あいさつ〜?」
明夢が首を傾げる。
「……『こんにち〜きゅるるん☆ からのー、ぱおーん☆』……コホン。この通称『きゅるぱお』は、去年のIT流行語大賞で金賞を取ったほど流行った、アイドル系アイチューバーMOEMOEのあいさつだ。こういうよくわからん掴みはJKのセンスが最大限に発揮できるだろ?」
「わ〜、確かにそうかも〜」
「き、京村くん、今のモノマネ、も、もう一回……」
普通に感心する圦本に対し、どうやら阿南はさっきのキョージンのセリフがツボに入ったらしく、顔を覆って、下を向いて笑いをこらえ……きれてないね。
「つか……」
みんなの話を遮って申し訳ないと思いつつ挙手をした。
「おれ、本当に催眠術かけられるのかどうか、ちょっと疑ってるんだけど……」
「ってまだ言ってんのかー!? かけてるから! ここの! ふたりに!」
怒りのキョージンに首を絞められる。
前のソファに座った二人と目が合ったけど、真顔で絞められていたためちょっと引かれた。
「あー、ねえねえ! だったら今日はもう一回、催眠術をかけてみるってことでどー? 二人同時ってできたりする?」
阿南がテーブル越しにおれたちの間に割って入って、キョージンの腕を引き剥がす。
キョージンの興味はすぐに阿南へと移ったらしい。
「お、それもそうだな。じゃあ実験してみるか。動画テストもしてみようぜ」
女子二人は顔を見合わせて、こくりと頷いた。
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