「今週のノルマおわりぃっ!」
ツッターンとエンターキーを叩いて、キョージンが部室のソファに座るおれの首めがけて飛びついてきた。
それと入れ替わるようにして、拝慈が倒れたデスクチェアを直して座る。
「神ちゃんあっそぼー! 希輝は今日このあとなにすんの?」
「え、え、僕? 特に予定はないけど……」
「んじゃ街! 街行こうぜ!」
「べ、別にいいけど。あっ、僕ね、マルイ地下の新店舗のカップティラミスが気になってたんだぁ。映えそじゃない〜っ?」
「そんなん男が行くかよ。食い物ならウェ◯ディーズみたいに肉で肉を挟むようなやつ探してこい」
「はぁ〜? 絶対ヤダ! 僕はかわいくないものは体内に入れないことにしてんだもーん。明夢ちゃんは行きたいよね?」
「ん〜。じゃぁ、お肉でティラミス挟むとか〜」
「「……おぅっえっ」」
同時にえづくとか、おまえら本当は仲良いよな?
気づけば夏休みまで、もう両手で数えるほどになっていた。
何度も顔を合わせていたはずだけど、実は部活のみんなで遊びに行ったことは一度もない。
なぜなら、うちの部で遊びに誘って来るとしたら日葉とキョージンくらいだけど、日葉は水泳で忙しくしていたし、キョージンもしばらく編集で詰まっていたし。
あとはおれを含めてプロぼっちばかりだから、まあ……うん。
最寄り駅だと小さな商店街しかないけど、数駅先の街に行けば遊ぶところはたくさんある。行けば楽しいとは思うんだけど。
「私のことは構わなくていいわよ」
奥のデスクでパソコンを見据えたまま拝慈が言った。
「もう少しこっちかかりそうだし、終わっても今日はまっすぐ帰るつもり。だから気を使わないで、いをりくん」
まさかの名指し。
チラ見していたのバレてて察してくれたんだろうけど、恥ずかしい。
「だとよ神ちゃん! んじゃ拝慈、あとはよろしくな〜。行くぞ全員!」
「えっ!? あ、うん。じゃあ拝慈ちゃん、先帰ってごめんね。頑張ってね」
「はーちゃん、また明日ねぇ〜」
「……ええ。みんなお疲れさま」
まるで「早く出て行け」とでもいうようにそっけない。
確かに拝慈はあまりはしゃぐイメージはないけど、彼女ひとりだけ残してほかの人たちが遊ぶってことに、全く意にも介してないように見える。
おれたちに興味がないならそれは仕方ないことだけど、だったら何が目的で、やらないかにいるんだ……?
「じゃあ……また」
もやもやした思いを抱えながら、最後尾のおれがドアを閉めた。
けれど姿が見えなくなる瞬間まで、彼女はパソコンから目を離すことはなかった。
靴を履き替えて校舎を出ると、心地よい風が髪をさらった。
まだ太陽も明るいし、これから街に出ても時間は十分あるけど。
さっきの拝慈の態度に気持ちが萎えて、おれの足は校門を出たところで止まってしまった。
「……あ。おれ、今日はまっすぐ帰れって言われてたんだった」
前を歩いていた三人が同じタイミングで振り返る。
「えー! 今日しか俺ゆっくりできないんだけどー?」
キョージンが顔をしかめつつ戻ってきた。
「めんご」
「あ、神が冗談言った」
「うっわ、普段おもんないヤツが無理やりギャグ言うのって、鬼サムいな〜! はっ、明夢ちゃん離れてっ! 鬼サムが感染っちゃうよっ!」
佐々崎はいちいちうるさいな……。鬼サムって誰だよ。
おれが行ったとしてもほぼ喋らないし、いてもいなくても変わらないだろ……。
なんとか言いくるめて、不満げなキョージンたちの背中が小さくなるまで見送る。
「さてと……」
イヤホンを耳につけ、おれは背中を丸めながら街とは逆方向の道を歩き出した。
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