1日で催眠術師になったのですが ヤラセじゃないかまだ疑っています

催眠術なんてあるわけない!のに、なんでみんなかかってるんだよ…(困惑)
アサミカナエ
アサミカナエ

15話・2

公開日時: 2021年4月7日(水) 11:11
文字数:1,438

「今週のノルマおわりぃっ!」



 ツッターンとエンターキーを叩いて、キョージンが部室のソファに座るおれの首めがけて飛びついてきた。

 それと入れ替わるようにして、拝慈が倒れたデスクチェアを直して座る。



「神ちゃんあっそぼー! 希輝ききは今日このあとなにすんの?」


「え、え、僕? 特に予定はないけど……」


「んじゃ街! 街行こうぜ!」


「べ、別にいいけど。あっ、僕ね、マルイ地下の新店舗のカップティラミスが気になってたんだぁ。映えそじゃない〜っ?」


「そんなん男が行くかよ。食い物ならウェ◯ディーズみたいに肉で肉を挟むようなやつ探してこい」


「はぁ〜? 絶対ヤダ! 僕はかわいくないものは体内に入れないことにしてんだもーん。明夢ちゃんは行きたいよね?」


「ん〜。じゃぁ、お肉でティラミス挟むとか〜」


「「……おぅっえっ」」



 同時にえづくとか、おまえら本当は仲良いよな?


 気づけば夏休みまで、もう両手で数えるほどになっていた。

 何度も顔を合わせていたはずだけど、実は部活のみんなで遊びに行ったことは一度もない。

 なぜなら、うちの部で遊びに誘って来るとしたら日葉とキョージンくらいだけど、日葉は水泳で忙しくしていたし、キョージンもしばらく編集で詰まっていたし。

 あとはおれを含めてプロぼっちばかりだから、まあ……うん。

 最寄り駅だと小さな商店街しかないけど、数駅先の街に行けば遊ぶところはたくさんある。行けば楽しいとは思うんだけど。



「私のことは構わなくていいわよ」



 奥のデスクでパソコンを見据えたまま拝慈が言った。



「もう少しこっちかかりそうだし、終わっても今日はまっすぐ帰るつもり。だから気を使わないで、いをりくん」



 まさかの名指し。

 チラ見していたのバレてて察してくれたんだろうけど、恥ずかしい。



「だとよ神ちゃん! んじゃ拝慈、あとはよろしくな〜。行くぞ全員!」


「えっ!? あ、うん。じゃあ拝慈ちゃん、先帰ってごめんね。頑張ってね」


「はーちゃん、また明日ねぇ〜」


「……ええ。みんなお疲れさま」



 まるで「早く出て行け」とでもいうようにそっけない。

 確かに拝慈はあまりはしゃぐイメージはないけど、彼女ひとりだけ残してほかの人たちが遊ぶってことに、全く意にも介してないように見える。

 おれたちに興味がないならそれは仕方ないことだけど、だったら何が目的で、やらないかにいるんだ……?



「じゃあ……また」



 もやもやした思いを抱えながら、最後尾のおれがドアを閉めた。

 けれど姿が見えなくなる瞬間まで、彼女はパソコンから目を離すことはなかった。



 靴を履き替えて校舎を出ると、心地よい風が髪をさらった。

 まだ太陽も明るいし、これから街に出ても時間は十分あるけど。

 さっきの拝慈の態度に気持ちが萎えて、おれの足は校門を出たところで止まってしまった。



「……あ。おれ、今日はまっすぐ帰れって言われてたんだった」



 前を歩いていた三人が同じタイミングで振り返る。



「えー! 今日しか俺ゆっくりできないんだけどー?」



 キョージンが顔をしかめつつ戻ってきた。



「めんご」


「あ、神が冗談言った」


「うっわ、普段おもんないヤツが無理やりギャグ言うのって、鬼サムいな〜! はっ、明夢ちゃん離れてっ! 鬼サムが感染っちゃうよっ!」



 佐々崎はいちいちうるさいな……。鬼サムって誰だよ。


 おれが行ったとしてもほぼ喋らないし、いてもいなくても変わらないだろ……。

 なんとか言いくるめて、不満げなキョージンたちの背中が小さくなるまで見送る。



「さてと……」



 イヤホンを耳につけ、おれは背中を丸めながら街とは逆方向の道を歩き出した。

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