1日で催眠術師になったのですが ヤラセじゃないかまだ疑っています

催眠術なんてあるわけない!のに、なんでみんなかかってるんだよ…(困惑)
アサミカナエ
アサミカナエ

10話・5

公開日時: 2021年2月5日(金) 11:11
文字数:1,118

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 数日後。キョージンに呼ばれてみんなで部室に集まった。ヤエさんから後日談として、動画が送られてきたらしい。



「ふふ、かわいらしいことしてくれるじゃない。じゃあPCで観ましょう。神多くんがどう解決したのかも気になるしね?」



 一ノ瀬先生がMacを開き、キョージンがエアドロップで動画を送る。



「あたしもあのあと気になってた!」


「もちろん、いをりくんがバッチリ解決してたわ」


「神ちゃんの催眠術関係なかったけどな」


「マンマンいるかな〜♪」


「マ……え?」


「先生、無視してください……」



 みんなで口々にしゃべっていると動画がスタートする。一斉に口をつぐんで画面に目を向けた。



『やらないかのみなさんこんばんは。倉持八重鹿です。先日は本当に、ありがとうございました。神多くんの「気負いすぎるな」という言葉、とても身に染みました』



 白い壁をバックに、くらもちの制服を着たヤエさんが映っていた。

 まるでアイドルのビデオレターのような出だしの動画に、日葉や明夢がわーきゃーと興奮している。

 急に名前を呼ばれたおれも、頬が熱くなる。




『そして「ペットのマンマンがきっかけかも」って言われたことにも、ハッとしました』



 ひゅーっとキョージンが冷やかし、日葉がぐりぐりと肩を拳でつついてきた。あはは、お触りするねえ。



『だから、あたしマンマンを締めることにしました!』


「……は?」



 部室の空気が絶対零度の世界へと転送されたかのように凍った。

 締める……え? なんで? 締め、え、ペットに?

 思考が追いつかず、疑問が頭の中でぐるぐると回り続ける。

 動画のヤエさんは「冗談です」と言うこともなく言葉を続けた。



『超つらかったです。でもあたしも料亭の娘。命と真摯に向き合い、乗り越えないといけない試練なんですよ。それでですね、やっぱり情がわいた生き物に包丁を入れる瞬間って……』


「うわあああああああん!」



 恐怖に耐えられず、明夢が泣き出した。



『思うんです。食育っていうのは……』


「……先生、この子って俺らに託しちゃダメなタイプの、ガチめな子だったんじゃ……」



 キョージンが顔を引きつらせてつぶやく。



『でも! おかげでもう全然! さばくのも平気に!』


「…………ごめん。今日はみんな解散で……」



 先生はすくっと立ち上がると、「まだ学校に残ってるかな……」とつぶやき、ふらつきながら部屋を出て行った。

 そうは言われても、猟奇的なセリフとは裏腹の明るい声色が異様さを引き立て、催眠にかかったかのようにみんな固まって動けない。

 泣きじゃくる明夢以外は、なんとも言えない顔でPCを見つめていた。



『あ、せっかくだし内臓見ます? マン肝(笑)。実はマンボウってすご』



 メッセージの途中で無意識におれは手を伸ばし、思いっきりPCを閉じた。

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