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数日後。キョージンに呼ばれてみんなで部室に集まった。ヤエさんから後日談として、動画が送られてきたらしい。
「ふふ、かわいらしいことしてくれるじゃない。じゃあPCで観ましょう。神多くんがどう解決したのかも気になるしね?」
一ノ瀬先生がMacを開き、キョージンがエアドロップで動画を送る。
「あたしもあのあと気になってた!」
「もちろん、いをりくんがバッチリ解決してたわ」
「神ちゃんの催眠術関係なかったけどな」
「マンマンいるかな〜♪」
「マ……え?」
「先生、無視してください……」
みんなで口々にしゃべっていると動画がスタートする。一斉に口をつぐんで画面に目を向けた。
『やらないかのみなさんこんばんは。倉持八重鹿です。先日は本当に、ありがとうございました。神多くんの「気負いすぎるな」という言葉、とても身に染みました』
白い壁をバックに、くらもちの制服を着たヤエさんが映っていた。
まるでアイドルのビデオレターのような出だしの動画に、日葉や明夢がわーきゃーと興奮している。
急に名前を呼ばれたおれも、頬が熱くなる。
『そして「ペットのマンマンがきっかけかも」って言われたことにも、ハッとしました』
ひゅーっとキョージンが冷やかし、日葉がぐりぐりと肩を拳でつついてきた。あはは、お触りするねえ。
『だから、あたしマンマンを締めることにしました!』
「……は?」
部室の空気が絶対零度の世界へと転送されたかのように凍った。
締める……え? なんで? 締め、え、ペットに?
思考が追いつかず、疑問が頭の中でぐるぐると回り続ける。
動画のヤエさんは「冗談です」と言うこともなく言葉を続けた。
『超つらかったです。でもあたしも料亭の娘。命と真摯に向き合い、乗り越えないといけない試練なんですよ。それでですね、やっぱり情がわいた生き物に包丁を入れる瞬間って……』
「うわあああああああん!」
恐怖に耐えられず、明夢が泣き出した。
『思うんです。食育っていうのは……』
「……先生、この子って俺らに託しちゃダメなタイプの、ガチめな子だったんじゃ……」
キョージンが顔を引きつらせてつぶやく。
『でも! おかげでもう全然! さばくのも平気に!』
「…………ごめん。今日はみんな解散で……」
先生はすくっと立ち上がると、「まだ学校に残ってるかな……」とつぶやき、ふらつきながら部屋を出て行った。
そうは言われても、猟奇的なセリフとは裏腹の明るい声色が異様さを引き立て、催眠にかかったかのようにみんな固まって動けない。
泣きじゃくる明夢以外は、なんとも言えない顔でPCを見つめていた。
『あ、せっかくだし内臓見ます? マン肝(笑)。実はマンボウってすご』
メッセージの途中で無意識におれは手を伸ばし、思いっきりPCを閉じた。
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