イレギュラー召喚で神器をもらえませんでした。だけど、勝手に付いてきたスキルがまずまず強力です

とみっしぇる
とみっしぇる

2 神器よ 発動せよ

公開日時: 2022年10月12日(水) 16:55
文字数:1,863

「サーシャの祈りに応えよ。神器スコップ発動!」


「なにっ」

「ふせろっ」


「・・・・」

使い古したスコップは、やっぱりスコップだった。


「恥ずかしいよ。えいっ」

か~ん。スコップは兵士の鎧に当たって、先が欠けた。


「ヤバい、ヤバい。空間収納に女神が何か入れてないの?」


スコップ2本、銅のナイフ1本。投石用の石3個。残念なほど、今朝確認したまんまだ。


「このサーシャという女を捕らえろ。薄汚れているが、見てくれは悪くない。裸に剥いて、好きに拷問していいぞ」


くそっ、ヤられた上に殺されるのか。盗賊に捕まるより最低じゃないか。なんだよ、この泥沼にはまったような最悪の展開。

泥沼・・。そうだ鑑定士が言ってた「水溜まり」を作るスキル、私の中にだけ浮かんだ、このスキルの名前は「沼」だ。


「ふん、観念したか」

「するかボケ。これでダメでも死ぬまで抵抗してやる。「沼」発動!」


ピピピ沼レベル1ピピピ


ゆらゆら、ぽちゃん。


接見の間に敷いてある大理石の上に、直径80センチの、黒っぽくて丸い円が私の足元に出来上がった。なぜか、正確な大きさが分かる。


ゆらゆら、ゆらゆら。

私は手を伸ばし、下に向けて手のひらを開いた。


「な、なんだそら。足元に「水溜まり」ができてるよ。鑑定士が言ってた通りだ」

「ギャハハ、この人数を相手になに出してんだ」

「捕まえるぞ」


兵士Aが沼を右に避けようとしたとき、私は同じ方向に手を動かした。


すると沼も猛スピードで動いた。


とぷんっ。

兵士Aの片足がいきなり膝まで床に沈み、バランスを崩して左腕を大理石に打ち付けた。

「ぐわっ。何が起こった?」


「お、お前、なんで大理石に沈んでんだ」


驚愕の表現を兵士Bが見せたけど、私も同じような顔になっていたと思う。


「なんだ、うわわわああ!」

パニクった兵士Aが沼を叩くと、今度は両腕がぬるっと沈んだ。


「助けろ、おい女!」


声で正気に帰った私は、「沼」の使い方を理解し始めていた。


「強姦して殺そうとした相手に命乞い?あんたで二人目だよ。死ね!」


顔面を力一杯蹴ってやったら、兵士Aが完全に沼に沈んだ。


蹴るときに沼の端を踏んだけど、私は沈まないようだ。


呆気に取られてる兵士たち。

ここがチャンス。というより、今を逃したら殺される。


私を殺す指示を出した兵士長らしきやつの足元に沼を出した。


「うわっ沈む。おい、誰がその女を殺せ」

「はい、お待ちください」


剣を抜いた兵士Bの足元に、沼を移動させた。


両足が沈んだ兵士長がどうなるんだろうと思えば、嬉しい誤算が起きた。


「うわああああ!」

「ぐえっ」

なんと兵士長の両足をとらえたまんま、沼は兵士Bのとこに移動して、二人は激突した。


沼は、うつ伏せに倒れた兵士Bの顔面の下に移動すると、とぷんと兵士Bの首から上を吸い込んだ。


兵士Bの足がバタバタと動き、兵士長を激しく蹴る。

「ぐわっ、やめろ、いでっ、でっ」

わずか80センチの穴に大人二人がはまっているのだ。


ぐったりした兵士長はやがて沈みきるだろうが、相手は待っていない。

それは、私もだ。


走りながら、右手を目まぐるしく動かし、どんどん沼を兵士の足元に移動させた。


「うわあ!」

「離せ!」

「謝るから、助けてくれぇぇ」

「ひいゃああ」


体の一部を沼に引っ掛けられ、悲鳴を上げる兵士の塊を容赦なく左右に振りまくった。


ゴンゴンゴン!


一度に捕まえられるのは四人が限界だけど、回転しながら沼を移動させると、鎧を着た大男の塊は最高の武器になった。


私を捕まえて犯すのが目的だったから、抜刀してなかったのもラッキーだ。一人が15秒ほどで沈むと、空いたスペースで次の獲物を引っ掻ける。


私の容赦ない「沼兵士ハンマー」でほとんどの兵士が倒れたが、動かないやつにも追い討ちをかけた。




2人の兵士が反撃をあきらめ、貴族が去った方の扉に逃げた。

あいつらに沼が届かなかったと思った瞬間、射程距離は10メートルと認識した。


「うげ、ぐげ」

ゴキゴキゴキ。


わずか80センチの穴に4人の人間が吸い込まれているんだ。苦悶の声が聞こえてくる。


ピピピ沼レベル2ピピ

ピピ沼レベル3ピピ


目の前の残忍な光景はあっという間に終わり、いきなり沼のレベルが3まで上がった。

私自身が冒険者を3年やってレベル4だから、負けた気分だ。


なんて呑気なことばかり考えていられない。

脱出しないと。


この国の上層部は召喚者に嘘をつき、魔王様を倒させようとしているくらいの奴らだ。


うっかり拠点を名乗った私も殺しに来るだろう。


同じ世界から召喚された上に、神器をもらえなかったイレギュラーな存在。


生き残るためには、ただ逃げるだけではいけなさそうだ。




アルファポリスで先行掲載しています

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート