信じるつもりはなかったんだ。
爺ちゃんが入院してから、俺は何度も神社に足を運んだ。
意味もなく手を合わせてた。
“助けてほしい”って、心の中でお願いしてた。
あの当時の俺は、まだ、「神」が何かなんて知ろうともしなかった。
爺ちゃんの絵の中にある「何か」を感じ取っても、それがどこに繋がっているものかを、手を伸ばして探そうともしなかった。
だから、もしかしたら“いるかもしれない”って思ってた。
それが「神」なのか「仏」なのか、はたまた「物の怪」か、形容する言葉はなんでもよかった。
神秘的な存在だっていうことだけはわかってた。
他に説明できるようなこともなかったし、それに…
和茶に出会ったのはそんな時だった。
古びた神社の正面に立ち、手を合わせてお祈りしていた時だった。
声が聞こえたんだ。
神社の建物の中から。
「おい、童。奉納する金もないのに手を合わせるだけか?」
「………!?」
聞き間違いかと思った。
最初、その声を聞いた時は。
何週間も通ってた。
俺以外、神社に来る人なんていなかった。
森の中はしんと静まりかえってて、ささやく風の音が、染み渡るように流れていた。
鳥や虫の声と、多い茂った緑と。
木漏れ日が、わずかな光の粒を届けるように神社の屋根を照らしていた。
中は見えなかった。
真昼間でもだ。
扉は開きそうにもなかった。
建物は歪んだようにさえ見えて、今にも崩れ落ちそうだった。
人の声なんて、聞こえるはずがない。
そう思いながら、周りを見渡した。
そしたら、また、「声」が。
「お前みたいな奴がくるところじゃないぞ、ここは」
木漏れ日が降る屋根の上に、少女はいた。
片膝を立てて座っていた。
どこか偉そうで、こっちを見下したように。
「…キミは?」
なんでこんなところに…?
当時俺は中1だった。
小学校を卒業して間もなかった。
見た感じ同い年くらいの女の子が、ひらりとした白い和袖を着て座っている。
しかも、「屋根の上」に。
幽霊かと思った。
それくらい、びっくりした。
いるはずのないところにいる。
そのことの“異常さ”は、火を見るより明らかだった。
恐怖さえあった。
だって、あまりにも唐突だったから。
服装も服装だし、場所も場所だった。
…一体いつからそこに…?
そう思う感情のそばで、目が点になる。
後ずさる俺を追うように、少女は屋根から降りてきた。
巨大なゴーグルを額にかけ、緑色のリボンで後ろ髪を縛っていた。
オレンジ色の髪に、オレンジ色の瞳。
どこかイタズラっぽい顔つきで、独特な雰囲気を持っていた。
見た目は少女でも、得体の知れない気配があった。
少女なのに少女じゃないっていうか、へんに大人びてるっていうか。
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