DEAD END 〜『神』と名乗るおっさん系女子は、定期的にお賽銭を要求してくる〜

天下をとりに行くぞ!ヒロ!
平木明日香
平木明日香

第17話

公開日時: 2024年12月5日(木) 20:37
文字数:1,815




 (で、どうするわけ?)


 「まずはこの前の痕跡を追う。悪霊どもは同じ場所を好む傾向にある。前回もそうだったが、恐らくこの土地に所縁のあるものだろう。いなければいないで仕方がないが、どうも気になってな」


 (気になるって?)


 「悪霊は基本的に自我を持たない。不完全体のものであるならまだしも、あれは完全に転化した後の魔物だ。だが、ヤツの霊力を読み取る中で、不自然な部分があった」


 (不自然?)


 「うまくは言えんが、本能だけで動いているようには見えなかった」


 (そうか?俺にはそうは見えなかったけど)


 「お前は鈍感だからな」


 (うるせぇ!悪霊にも色んなタイプがいるだろ。姿形だって、決まった形があるわけじゃないし)


 「そう単純な話ではない。前にも話しただろう?悪霊とは、“生命の本来の姿”であると」


 (…聞いたけど、よくわかんねーんだよな)


 「どうしてヤツらが、決まった形で存在しないかわかるか?」


 (さあ)


 「それはヤツらが、”自由“を欲している存在だからだ」


 (自由…ねえ)


 「そう難しく考えるな。ようは、“生きようとする意思”そのものだと思えばいい」


 (…いや、余計ややこしいわ)


 「悪霊がどこから生まれてくるかは、少しは理解しているだろう?」


 (死んだ人たちの「魂」だろ?)


 「そうだ。魂とは、言い換えれば“エネルギーの塊”そのものだ。自然物に思われがちだが、そうではない。元々この世界に存在しなかったものだ。文献によれば、人間がその形を成せるのは、魂の暴走を抑えるための肉体を手にしているからだ。理性を持たし、生きる目的を与えることで、エネルギーが膨張し、破裂するのを抑えている。肉体という「器」がなければ、たちどころに闇に呑まれ、1つの形を保つことが難しくなるだろう」



 悪霊とは何か。


 その具体的な答えを理解しているものは少ない。


 在籍期間の長い神でさえ、その詳細をわかっていない者が多い。


 わかっていることがあるとすれば、悪霊がいつ、どこで生まれるかだ。


 常世には数多くの「漂流者」が住んでいる。


 この漂流者というのは常世に住む民のことで、現世で死んだ魂たちのことだ。


 彼らは所縁のある土地に住み、現世で過ごした時間と同じ時間を使って、自らの「罪」を洗う。


 「三途の川」の話を聞いたことはないだろうか?


 三途の川は、あの世とこの世を隔てる川として一般的に知られている。


 三途の川の「三途」は仏教に由来するもので、仏教の世界観における六道の内の三つ「餓鬼道(がきどう)」「畜生道(ちくしょうどう)」「地獄道(じごくどう)」を意味する。


 名前の由来には一説として、「川の渡り方が三通りあることから”三途”の川と呼ばれている」とする説もある。


 十王信仰によると、人は死後、魂となって冥途を旅して裁判を受ける。


 十王(じゅうおう)というのは、この冥途において死者を裁く裁判官のことであり、有名な閻魔大王もこの十人の王の内の一人である。


 人の死後、初七日、二七日、三七日…と七日ごとに法要が行われるのは、このタイミングで十王による死者への裁判が行われるからだ。


 三途の川は、初七日の裁判を終えた死者が次に向かう場所である。


 この時、死者が生前に行った罪の重さによって、川の渡り方が三通りに分かれる。


 三つの渡り方があることに、「三途の川」の「三途」の由来があると一説では言われている。



 実際に三途の川が存在しているわけではない。


 それはあくまで常世でのシステムをわかりやすく言い換えたものであり、創作に過ぎない。


 罪を持っていない人間は、基本的には存在しない。


 「罪」と言えば何か悪いことを連想するのが一般的だが、それはあくまで偏った思想に過ぎない。


 人は生まれながらにして罪を背負っていると言っても過言ではなく、理性を持ち、生きることを渇望することでさえ、「罪」なのだ。


 もちろん、三途の川を渡るルートが三通りあるように、罪の大きさは人によって違う。


 しかしなんの罪も犯していないという人間は原理上存在せず、どれだけの善人であったとしても、それが「悪」でないとは言えないのだ。



 悪霊とは、死後魂になった人間が、その罪を拭った後の“残骸”であると言われている。


 常世に住み、時間をかけて罪を洗うことで、魂はやがて浄化され、生まれたままの姿に戻る。


 そうして黄泉の国へと渡れる「資格」を持つことができ、生前持っていた全ての記憶や記録を捨て、純粋なエネルギーへと立ち戻るステップを踏む。


 新たな生命を生み出すための、礎になるために。


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