「行ってきまーす」
瑠奈とた大貴が出て行ったあと、俺は神社に行くことにした。
和茶の“家”であり、職場。
彼女と出会って、俺の生活はガラッと変わった。
朝っぱらから学校にも行かず神社に出向くようになったのは、最近の話じゃない。
「毎日」ってわけじゃない。
学校に行く日は行くし、勉強だってちゃんとしてる。
ただ、他の人と同じような日常を送っていないことは確かだった。
1週間のうちに何度か山の中の神社に行って、和茶の「仕事」に付き合わされているからだ。
『悪霊退治』
説明すると長くなるんだが、要するに和茶は、『悪霊』と呼ばれる魔物を討伐する仕事に就いていて、その[担当区域]が俺の住んでいる家の周辺の土地っていう話。
端折りすぎたか?
説明しようとしても、色々ややこしくて困るんだよな…
まず“悪霊”ってなんなのかって話なんだが、これはまあ言葉通りの意味というか、「幽霊」とかそういう類のものだ。
悪霊の発生起源はまだよくわかっていないが、日本全土には得体の知れない疫病みたいなものが流行ってて、それが悪さしているらしい。
人間はもちろん、生き物全般には寿命があって、あらゆる生物は死後魂になり、黄泉の国へと行くとされている。
黄泉の国っていうのは、「あの世」のこと。
一度は聞いたことがあるんじゃないかな。
身近な誰かが亡くなった時、亡くなった人の魂が成仏して、天国に行くって。
地方によって呼び方や考え方が変わったりするから、一概には言えないかもしれない。
ただまあ、要するにそういうことだ。
あの世でも天国でも、呼び方はなんでもいい。
生き物はみんな、死んだら「魂」になる。
肉体を持たない幽霊ってやつ。
悪霊は、生き物の魂が魔物に進化したものだって解釈すればいい。
厳密には少し違うみたいだが、俺も詳しいことはわからないんだ。
悪霊っていう存在そのものが、世界の「病気」だっていうこと以外は。
(今日は街中に行くぞ)
「は?なんで??」
(この前取り逃したΔ(デルタ)がいただろう。ヤツを追う)
「…追うって言ったって、管轄が違くね!?」
(少しくらいなんだ?ヤツらを討伐するのが私たちの仕事だろう)
…いやいや、お前の仕事な?
さらっと俺も含めんな。
「Δ(デルタ)」っていうのは悪霊の別称で、悪霊に纏わる全ての魔物を指す言葉になっている。
つい先日のことだった。
人型のデルタが出現し、管轄内のフィールドで戦闘を繰り広げていた。
手強かったんだ。
想像以上に。
結局街中に逃げてしまって、管轄の外にまで行ってしまった。
そのことはもちろん、上層部には連絡した。
和茶を含む、各管轄の神々を指揮する司令本部『大天門』の情報通信課には、管轄のラインを超えたために戦闘を中断したことは伝えていた。
対応としてはそれで十分なはずだった。
管轄を超えて戦闘を行う場合には、事前に申請を行う必要があるはずだし…
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