神社に着いた後、俺たちは仕事に行くために準備をした。
準備っていっても、そんな大層なことじゃない。
和茶は神社の周りでは、周囲の人間にも見えるように実体化する。
最初に出会った時と同じように、手に触れたり、声を発することもできる。
神にはそれぞれ「土地」というものがあって、自らの「神力」と密接に結びつく領域が存在する。
この領域のことを通称“神域“と呼び、神が現世へと具現化することができる範囲のことを指す。
わかりやすく言えば、「神社」とは神が鎮座する場所であり、現世へと通じることができる“通り道”でもある。
神社の敷地としての大きさはピンキリだが、神聖な場所と外界の境界を分けるのは、「鳥居」になっている。
この神社にも存在するが、鳥居の外に出れば、和茶も実体を保てなくなり、力を失う。
逆に鳥居を潜れば、それは彼女の領域に侵入したことになる。
そしてその境界の役割を担う鳥居には、別の側面があった。
「さ、行くぞ」
人間の姿になった彼女は、俺に合図を送る。
さぁっと風が立ち込め、木の葉がひらりと宙に舞い上がる。
俺は全身の力を抜いた。
目を瞑り、呼吸を整える。
『風の満ち渡る刹那よ、翳りし影の縁を捉えよ』
響き渡る軽やかな声。
伸ばした手のひらに、風が回転する。
和茶は「風」の力を操る神だった。
彼女の神号は、志那都比古神(しなつひこのかみ)。
“解言”を唱え、自らの力を解放する。
ゴオッ
半径数メートル以内の範囲で突風が吹く。
それは“合図”だった。
彼女が唱えた言葉は、自らと契約したものを呼び起こすため。
自らの力の半分を受け渡した「者」との融合を、促すためだった。
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