マンションから恭子と一緒に乗り込んだのでは、運転手に不審に思われると判断した浩一は、ボウリング大会当日は最寄り駅で、実家のリムジンを待ち受ける事にした。その土曜日の午後、定刻通りに駅前ロータリーに滑り込んできたそれに、恭子を促して後部座席に乗り込むと、向かい合って座った女二人が、早速和やかに会話を始める。
「こんにちは、真澄さん。随分お腹が大きくなりましたけど、体調はどうですか? 予定日まで二週間切ってますよね?」
「いたって順調よ。今日は付き合わせてしまってごめんなさいね」
「それは構わないんですが……」
(でも、先生が一緒にいるのに、わざわざ私に付き添いを頼むのも変な話なのよね。先生だったら百メートル先に真澄さんが居ても、何かあったら瞬時にすっ飛んで来ると思うんだけど)
未だに解消されない疑問を抱えつつ、愛想笑いをした恭子から視線を移し、真澄は次に浩一に声をかけた。
「浩一も元気だった? 清人が仕事の内容はともかく、あまり社内の事を教えてくれないから」
「……ああ、元気だから心配しないで」
「そう? それなら良かったわ」
真澄はにこやかに頷いたが、恭子は一瞬浩一の笑顔が強張ったのを見て取った。
(絶対、何かやってる。そして確実に浩一さんが迷惑を被ってる。今日も何か、面倒な事にならなければ良いんだけど)
涼しい顔をしている清人を盗み見しながら、そんな事を考えて気が重くなった恭子だったが、面には出さずに会話を続けた。
そして目的地のビルに到着した一行は、駐車場にリムジンが入りきらない為付近で待機して貰う事にし、エレベーターで上へ上がる。すると受付の手前のかなり広いフリースペースでは、結構な人数が幾つものグループを作って談笑していた。
「もうかなり揃ってるな。さて、受付してくるか」
「二人とも大人しくしてろよ?」
「分かりました」
「行ってらっしゃい」
バインダーを抱えた企画担当者らしい女性を見つけ出した浩一は、清人を引き連れて移動し、その二人を見送ってから恭子は真澄に声をかけた。
「真澄さん、椅子がある場所を探して来ましょうか?」
「大丈夫よ。中に入ったらすぐ座るから」
「そうですか?」
そんな事を言っていると、少し離れた所で立ち話をしていたグループから、一人の若い女性が駆け寄って来て、元気良く真澄に挨拶してきた。
「課長! お久しぶりです! 予定日は再来週ですよね。体調はどうですか?」
「ええ、経過は順調よ。藤宮さんも変わりは無い?」
「はい。課長の抜けた分をフォローするなんておこがましい事は口に出来ませんが、二課は一丸となって頑張ってますので安心して下さい」
「それなら良かったわ」
部下の藤宮美幸とほぼ二ヶ月ぶりに顔を合わせ、真澄は笑顔で会話を交わしたが、その相手の女性の顔を見た瞬間、恭子は激しく狼狽した。
(しまった! 柏木産業の組合主催って事は、真澄さんの部下の人とも顔を合わせる機会があるって事で、よりにもよって……)
「あ、課長のご親戚の付き添いの方ですよね? 課長代理から話は聞いています、ご苦労様です。今日は課長のお世話を宜しくお願……」
そこでクルッと恭子に向き直り笑顔で挨拶しかけた美幸は、急に言葉を途切れさせたかと思ったら、勢い良く恭子を指差して絶叫した。
「あぁぁぁっ!? あんたあの時の、課長代理の片割れの変態痴むぐがぅっ!」
「お久しぶりです課長! 付き添いの方もご苦労様です! お騒がせしてすみません。藤宮はゲーム開始前から興奮気味なので、ちょっと向こうで落ち着かせて来ますので、失礼します!!」
「お願いね、城崎さん」
「……ご苦労様です」
しかし美幸が叫んだ瞬間、どこからともなく長身の男がすっ飛んで来て彼女を片手で抱え込み、もう片方の手で彼女の口をしっかりと塞いだと同時に、謝罪と弁解の言葉を口にしながら強引に廊下の向こうに引きずって行った。それを呆気に取られて見送ってから真澄が振り返り、不気味な微笑みを浮かべながら恭子に迫る。
「それで? 何がどうなっているのか、当然説明して貰えるわよね?」
それに居心地悪そうに若干視線を逸らしながら、恭子は恐縮気味に話し出した。
「その……、ですね。去年の春、彼女が真澄さんの下に配属された直後、先生から『どうも真澄さんの下にレズっ気が有りそうな女が配置されたから、危険性を判断する為にちょっと押し倒してみろ』と言われまして……」
それを聞いた真澄は、思わず額を押さえて溜め息を吐いた。
「人の知らない所で、何をやってるの……。それでどうなったの?」
「見事に返り討ちに合いまして、アスファルトに転がされました。さすが真澄さんの部下です。一筋縄ではいきません」
「……ご苦労様」
真顔で部下を賞賛されて真澄は思わず目を泳がせたが、恭子の独白は続いた。
「それに加えて……、ガキに『オバサン』呼ばわりされても今ではどうって事有りませんが、その時彼女に、あの人でなし鬼畜野郎と『痴女と美人局の変態カップル』で一括りにされました。あんな屈辱は初めてです……」
そう言って当時の事を思い出したのか、握り拳を軽く震わせている恭子を見て、真澄は文句を言うのを止めた。
「色々言いたい事は有るけど……、それなりに色々な意味で痛い目にあっているみたいだから、何も言わない事にするわ」
「ありがとうございます」
そこで受付を済ませたらしい清人と浩一が、何やら用紙を手に戻って来た。
「待たせたな。中に入るぞ」
「…………」
入場のチケットを渡して受付を通り過ぎ、一階上の会場へと向かうエスカレーターに乗り込んでも手元の紙を見下ろしながら浩一が無言だった為、真澄が不思議そうに声をかけた。
「浩一、どうかしたの? 変な顔をして」
それに我に返った様に顔を上げた浩一が、手元の紙を真澄と恭子に見える様にしながら説明する。
「今日の組み合わせが……、俺と清人と二課の城崎さんと藤宮さんで、同じレーン使用になってるんだ」
(城崎と藤宮って……、さっきの二人組?)
何となく誰かの作為を感じた恭子だったが、次の真澄の台詞で益々その疑惑を深めた。
「あら、それは楽しくなりそうね。何かの折りに城崎さんと藤宮さんはどちらもボウリングが得意って言ってたし、清人も浩一も上手でしょう?」
そうわざとらしく笑顔で問うと、清人も負けず劣らずの笑顔で応じる。
「誰が一緒にやっても、最後に勝つのは俺だがな」
「あら、そんな油断をしてると、足元を掬われるわよ?」
「俺が真澄の前で無様な姿を晒すと思っているのか?」
「勿論、そんな事は思っていないけど」
「当然だ。ほら、俺達のレーンはあそこだから、あの辺の椅子に座ってろ。俺達は靴を借りて来るから」
エスカレーターを降りた途端、互いの腰に手を回してくっついて歩き出した清人と真澄に、浩一と恭子は思わず深い溜め息を吐いた。
(頼むから、少しは人目を気にしてくれ……)
(相変わらずのバカップルぶり。真澄さんがどんどん壊れてるわ……)
そしてプレーするレーンの後方に設置してあるベンチに居場所を決めた恭子は、そういう場所の例に漏れずあまり良くなさそうな座り心地を改善すべく、持参した大きなレジャーバッグの中から、真澄用のクッションを取り出した。それから足腰を冷やさない為の膝掛け、保温ボトルなどを取り出して着々と観戦の準備をしていると、先程問答無用で城崎に連れ去られた美幸が、いつの間にか真澄の目の前にやって来て、硬い表情で声をかけてくる。
「……課長」
「あ、藤宮さん。清人と浩一と同じグループなのよね? 今日は宜しくね」
「はぁ、それはともかく……。そちらの方は本当に課長の遠縁でご友人でしょうか?」
「ええ、以前からの友人よ?」
(あのろくでなしが『二十代三十代遡れば、日本国中誰でも遠縁になるだろ』ってほざいた程度の遠縁ですけどね)
チラッと恭子に視線を向けながらの美幸の問いに、真澄も恭子も笑顔でしらを切った。それで美幸は何とか自分を納得させる様に頷く。
「分かりました。こちらの方に色々問い詰めたい事はありますが、課長と係長の顔を立てて不問にします。その代わり……」
そこでズイッと恭子に詰め寄った美幸が、低い声で恫喝する。
「見学中に課長に何かあったら、承知しないわよ? あんたそこの所、分かってるんでしょうね?」
「……肝に銘じておきます」
「宜しい」
殊勝に応じた恭子に取り敢えず満足したらしい美幸は、打って変わって明るい笑顔で真澄に宣言した。
「それでは課長、申し訳ありませんが、今日は絶対に優勝して、あの嘘臭い笑顔を粉砕しますから! 私の勇姿を見ていて下さいね!?」
「……頑張ってね」
「はい!」
真澄から一応の励ましの言葉を貰った美幸は意気揚々と椅子に向かい、上機嫌で引きずってきたキャリーバッグからマイシューズとマイボールを取り出し、鼻歌混じりに準備を始めた。その様子を見ながら、恭子が真澄に体を寄せつつ囁く。
「……察するに、彼女の粉砕対象って先生ですか?」
「何だか職場で初めて顔を合わせた時から、折り合いが悪くてね」
「見かけによらず命知らずですね。それに先生にあっさり丸め込まれないなんて……、さすが真澄さんの部下です。ですが先生に任せて、真澄さんの職場って、大丈夫なんでしょうか?」
「段々、不安になって来たわ」
沈鬱な表情で女二人が黙り込んでしまった頃、シューズを借り出してレーンの手前の椅子に座って靴を履き替えていた浩一は、ふと隣にいた城崎を眺めて思わず話し掛けた。
「城崎、大丈夫か? 最近、見る度にやつれているみたいだが……」
「お気遣いありがとうございます。まだ何とか大丈夫です」
「そうか?」
今現在清人の下で働いている後輩を、浩一は心底気の毒に思ったが、ここで目の前にやって来た美幸が挨拶をしながら礼儀正しく頭を下げた。
「係長、浩一課長。今日は宜しくお願いします」
「やあ、こちらこそ宜しく藤宮さん。お手柔らかに」
顔を見知っている姉の部下に浩一が愛想良く笑いかけると、彼女は顔付きを改めて申し出た。
「それでお二人とも、ちょっと宜しいですか?」
「何だ?」
「どうかしたかな?」
真剣極まりないその表情に浩一と城崎が僅かに身を乗り出すと、美幸は怖い位の表情で続ける。
「勝負は時の運です。引き分けは恥じゃありませんし、あと一歩及ばず1点負けで終わっても、誰も責めたりはしません。ですが……」
そこで浩一と城崎の隣り合った肩を勢い良くガシッと両手で掴んだ美幸は、押し殺した声で恫喝した。
「もし、万が一、あの似非紳士野郎に2点以上差をつけられて負けたりしたら……、私がフルボッコにするので、そのおつもりで。通常ならともかく、今日は勝利あるのみです」
「…………」
そして黙り込んだ男二人から手を離し、意気軒昂と叫ぶ美幸。
「さあ、やるわよ! 今日こそは、あの陰険詐欺師をギャフンと言わせてやるんだから!」
(清人……、お前姉さんの職場で何をやってる……)
思わず項垂れてしまった浩一に、至近距離から低い声がかけられた。
「……柏木先輩」
「あ、ああ……。城崎、どうした?」
慌てて顔を上げた浩一と、ある意味悲壮感溢れる城崎の視線がぶつかる。
「すみません。幾ら大学時代に何度も庇って頂いた大恩ある先輩と言えども、ここで無様に負ける訳にはいきません。今日は全力でやらせて貰います」
「……分かった。お互い頑張ろう」
「はい」
固い表情のまま城崎が会釈して離れて行き、浩一は疲労感を覚えて溜め息を吐いた。
(たかがボウリングに、何をそんなに必死になって……。とは言え、俺も他人事じゃないぞ。散々コーチして貰った彼女の前で、無様な姿を晒す訳にはいかないじゃないか)
そんな各人の思惑が絡みまくった、柏木産業組合主催のボウリング大会が開催された。
「……それでは3ゲームでの総合得点で、勝敗を決したいと思います。上位十名までは豪華商品が。その他ファミリー賞を初め、全員に参加賞が用意してあります。普段交流のない部署の方達と交流を深めつつ、日頃のストレスと運動不足解消の為に、今日は楽しんでいって下さい!」
司会役の社員が一カ所に集まった参加者達に簡単なルールを説明の上開始を宣言すると、全員がやる気を漲らせながら割り振られたレーンへと向かった。
清人達の組ではジャンケンで順番を決めた結果、美幸、城崎、浩一、清人の順番になり、滞りなくゲームを開始した。
「とぅりゃあぁぁっ! ………やったぁぁっ!!」
「はっ! ……よし、行った」
「それっ…………、良し。取れたな」
「よっ……、と。こんな物だろ」
一番目の美幸はかなりのスピードで投げ込み、殆どスピンもかからないままほぼ一直線にピンに突っ込み、城崎の投球はかなり回転をかけながらも安定した直線に近い軌跡を描き、続く浩一はスピードは抑え気味に、かつ緩やかなカーブを描く様なセオリー通りの投球で、清人は殆ど回転がかかっていないままガーターに落ちると思いきや、急にスピンがかかって軌道が曲がり、ベストポジションにヒットした。
そして目の前で四人が一投ずつ済ませ、全員1番ピンと3番ピンの間に綺麗に当ててストライクを取ったのを見届けてから、恭子は何とも言えない顔付きで隣に座る真澄に話しかけた。
「……真澄さん」
「何?」
「投げ方とスピンのさせ方とコース取りで、面白い位個性が出ますね」
「そうね」
「それに……、組み合わせを仕組んだりしました?」
「あら、何の事?」
そこで前を見たまま応じていた真澄が、面白そうに笑いながら恭子に顔を向けた。それに(やっぱり何か裏から手を回してるわ)と確信しながら、一応指摘してみる。
「だってどう考えてもおかしくありません? このレーンのこの面子。他と比べても、断トツで上手な人間ばかりですよ?」
「下手な人と混ざって上手過ぎて場を白けさせるよりも、実力伯仲で盛り上がるんじゃないかしら?」
「そうだと良いんですけど……」
そこで一旦会話が途切れた為、恭子は再びレーンに視線を向けると、浩一が一投目でピンを二本残した所だった。
(5‐7のダイムストアか。また面倒な位置のピンが残って……。浩一さんはストライクを取る確率は高いけど、スペアを取りこぼす傾向も割とあったから、集中的にスプリットの練習をして貰ったのよね。この形もやったけど、どうかしら?)
思わず難しい顔で考え込んだ恭子は浩一の投球を見守ったが、ゆっくり曲がったボールが5番ピンを掠めて当たった直後、それが7番ピンを巻き添えにして奥に倒れ込んだのを認め、音を立てない様に小さく拍手した。
(やったわ! 先生の手前、あまり大っぴらに喜べないけど)
そんな嬉しそうな恭子の様子を見て、真澄は思わず小さく笑った。
(浩一と結構仲良くしてるみたいね。良かったわ)
そんな風に真澄が『実力伯仲』と評したそこのレーンでは、かなり熱く緊迫した戦いが繰り広げられていたが、時間が経つにつれそこのレーン以外の場所では、倦怠感が漂い始めていた。
「あ~あ、もう一位から四位まで、あそこのグループで決まりだろ」
「全部ストライクかスペア出してるもんな」
「さっき凄いスプリットを倒してるのを見たわよ?」
「おい、あそこのスコア。2ゲーム終了までに、四人全員二回ずつターキー出してるぞ」
「げ、マジかよ。つうか、2ゲームでなんであんなスコア? プロじゃないんだからさ……」
「やってらんねー。高スコアなんて狙わずに、もう気楽に行こうぜ?」
「豪華商品、欲しかったなぁ」
そんな事を言い合いながら、やる気を半減させている者達の会話を耳にした恭子は、一応真澄に言ってみた。
「真澄さん。場が盛り上がるどころか、一部で盛り下がっているみたいなんですが?」
「……あまり気にしないで」
「そうします。お茶とクッキーのお代わりはどうですか?」
「あ、お願い」
瞬時に気持ちを切り替える事については真澄も恭子も慣れた物だった為、二人とも深く考える事は止めて揃って紙コップに注いだお茶を啜った。そして最終ゲームの推移を見守る。
(先生に離されずに頑張ってるわね、浩一さん。他の二人もほぼ横一線だし。これは最終フレームまでもつれ込むかも……)
そこで上部のモニターに映し出されているスコアを眺めて、僅かに眉を寄せる。
(えっと、9フレームが終わった段階でトップは先生で、一点差で浩一さんと藤宮さん、二点差で城崎さん、か。微妙過ぎるわ)
そんな事を考えて溜め息を吐いた瞬間、美幸の悔しそうな叫び声が上がった。
「嘘っ!? 悔しいぃぃっ! どうして最後の最後で、続けて外すのよ!?」
(藤宮さん、初めてミスが続いたわね。二投して9本か)
まさかの最終フレームで、スペアを取りこぼすという失態を見せた美幸は椅子に座ってがっくりと項垂れたが、続く城崎もミスをしてしまったのは同じだった。
「ちっ……、手が滑った。一本残すとは……」
(城崎さんはストライクを逃して、手堅くスペア、最後はストライク、と。3ゲーム続けてですものね。そろそろ集中力が途切れてきても、おかしくないわ)
軽く同情した恭子だったが、次の浩一の一投目は美幸のそれ以上に悲惨な結果になった。
「しまった……」
投げた本人も痛恨の表情を浮かべていたに違いないが、残ったピンを確認した恭子は、思わず床に蹲りたくなってしまった。
(浩一さん、7‐9のレイルロードなんて……。どうしてこの場面で、よりにもよってこんな酷い平行スプリットにするんですか……。まあ、右利きだから8‐10よりはマシかもしれませんが)
そしてすかさず攻略法を頭の中で思い浮かべる。
(こんな難しいパターン、練習でもやった事無かったわ。でもごくごく軽くカーブをかけて9を掠める感じで当てて、それを平行移動させて7を倒すのを狙うのは、もう浩一さんは感覚として分かっていると思うんだけど……)
実際に傍に行ってアドバイスするわけにもいかず、やきもきしながら浩一の背中を見守っていると、僅かに逡巡する気配を醸し出していたのはほんの短い間で、浩一は再びボールを手にしていつも通り二投目を投げた。
「いけっ!」
(そのまま、端に当たって!)
緩やかなカーブを描くボールのコースが、自分が想定した軌跡とほぼ同じだった為、恭子は期待しながら見守ると、それは予想通り二本とも倒して奥に吸い込まれていった。その為思わず喜びの声を上げる。
「やった! 当たった!」
無意識に力強く拍手して喜んだ恭子だったが、それを見た真澄が笑いを堪える様な表情で、声をかけてきた。
「本当、今の凄かったわね。ひょっとして恭子さんがコーチしてくれたとか?」
「え?」
それで我に返った恭子は瞬時に手を止めて真顔に戻り、清人の様子を窺いながら静かに懇願する。
「その……、後で先生にいびられる可能性がありますので、できれば内密にお願いします」
「了解」
ニコニコと人の良い笑みを浮かべて請け負ってくれた真澄に安堵しつつ、恭子は不必要に騒ぎ立てない様に気を引き締めて再び前方に視線を向けた。
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