夏彦が消えた後の料亭で、胡蝶はゆっくりと食後のお茶を飲む。
「……あら」
そうして、支払いをしに戻ってきたライドウを見つけて、目をひそめる。
「もう終わりじゃなかったの?」
「ああ、いや……夏彦君が帰った後で、ちょっと話したいことがあってな」
「だったら、ここじゃない方がいいんじゃない? ここは、密談には一番不向きな場所でしょう?」
「ああ。最新の盗聴盗撮システムが組み込まれているんだからな。公安会には筒抜けだ。まったく、密談をしようとしたら料亭に行こうとする先生方の習性はさっさと何とかすべきだな。そこを突かれている……夏彦君はあの若さでこの料亭に通っているんだから、自業自得だ」
はは、とライドウは笑ってから、
「さっきの話もこれからする話も、公安会に教えてやるためにわざわざここでするんだよ」
「そういうことなら、聞きましょうか。一体、何?」
「うん」
元の席に腰を下ろしてライドウは、
「例のテキストについて、夏彦くんはうまく勘違いをしてくれている」
「勘違い? 嘘を信じている、の間違いじゃないの?」
「嘘は言わないよ。彼の直感で見抜かれる。きちんと、テキストの中身が学園についての重要なものだと信じていると言っただろう? 本心だよ。内容を知っているとは言わなかっただけだ」
「――それで、公安会に何を伝えたいの?」
「公安会にも、そして胡蝶にもここで言っておく。これ以上は、彼に干渉しない方がいい。後は放っておくべきだ」
「へえ」
胡蝶の目は、ゆっくりと細く、鋭くなっていく。
「つまり、この後にどうなるか、あなたには予想がついているっていうこと?」
「ある程度は」
視線に動じることなく、ライドウはお茶を手にして、
「胡蝶、僕たちの目的はかつての悲願の成就……つまり学園の真実を知ること。そして公安会の目的は事件の穏便な解決。そうだろう? どちらも、このまま夏彦君に自由に動いてもらえば成就する。そう思ってもらえばいい」
胡蝶とライドウの視線は絡み、そしてやがて二人の視線はそろって部屋の一角へと向かう。
「納得してくれたかな、公安会も」
「さあ、どうかしら?」
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