「どういうことなの?」
胡蝶は混乱の極みにある。そのまま、混乱のままライドウへと疑問をぶつける。
かつての、野心に溢れていたと同時に未熟だった、学生の頃に戻ったように。
「そうか、メモが架空のものだという話になったのか」
一方、それを受け止めるライドウは静かなものだ。
「そんな、そんなはずがないわ。だって――」
「胡蝶、よせ。我々の領地、司法会副会長室とはいえ、どこに耳があるか――」
ライドウの制止を振り切って、
「私たちはあのメモの中身を一部分知っているもの。そうでしょう? 私達も、あのメモをつくるのに協力したのだから。あのメモは、確かに存在した、そのはずよ。まさか、限定能力で記憶をいじられて――」
青い顔をして頭を抱える胡蝶を、
「落ち着け。君の記憶は間違っていない」
ライドウは優しくなだめる。
「一体、どういう……?」
「単純な話だ。確かにメモは存在した。そして、そのメモは――公安会が秘匿したんだ。そして、会はそれを誤魔化すカバーストーリーとして、架空のメモをつくりだした。そして、それを学園長すら信じている」
あのメモの真相を知っているのは、とライドウは続ける。
「ここにいる二人と、公安会の上層部、それから――」
「それから?」
「……遥か上の人々、いや人ではなく、化け物たちだけさ」
周囲に人の気配などない。
誰も入ることのできない副会長室だというのに、胡蝶は声を潜め、震えながら、
「ねえ、ライドウ」
「ん?」
「私は、本当に、断片的にだけしか知らない。『郷土研究部のメモ』には、何が書かれていたの? 一体、そこまでするだけの、何が書かれていたっていうの?」
その顔は汗で濡れている。
「ああ、色々だよ。ただの寒村だったこの土地が、学園が来ることによってどのように発展していったのか。その記録だ。そうだろう?」
「そう、この街の開発の歴史を、私達は調べた……一体、そのどこに、そこまでされるほどの情報が――」
「その中の一つが、あるものに引っかかったんだよ。聞いたことがあるだろう、胡蝶も?」
ライドウは天井を見上げて、遠い目をして、それから閉じる。
「あの『血染めの八月』だよ」
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