まだ、十七歳。付き合った男性はいて、キスまではいったことがあるが、付き合ったときは十五歳のときで、今考えるとその人を好きという気持ち半分、恋愛を楽しみたい気持ち半分の、不完全な恋心だった。
目が見えている内に、もっと、きちんとした恋愛がしたかった。相手の顔を認識し、相手の何気ない行動の癖なども分かった上で、恋愛をしたかった。
◇
入院生活が始まってから、いつも傍にはお母さんがいた。
私達一家は、両親と私の三人暮らし。お母さんは毎日病院に寝泊りし、付きっ切りで私の面倒を見てくれている。
お父さんは、会社帰りに必ず顔を見せてくれているが、仕事を終え、誰もいない家に帰るのは寂しいだろうなと、同情してしまう。
我が家なのに単身赴任のような状態になってしまっている。
両親は、全てを私優先に考え、行動に移してくれている。
それが嬉しくて、申し訳なかった。
目が見えないから分からないけれど、きっと両親の顔には疲労が浮かんでいるのだろう。
体の傷はそんなに酷くなく、入院するほどの傷ではなかった。問題は目の辺りに巻かれている包帯だ。
車にはねられた衝撃より、弾き飛ばされ地面に激突した際の打ち所が悪く、こんな事態に陥ってしまったらしい。
問題の包帯が取られたのは、事故に遭ってから五日目のことだった。
その日は月曜日だったけれど、学校を休み皆が私の傍にいた。
目の見えない状態でも、包帯ぐらい自分で取れるけれど、担当医が私の正面からゆっくりと包帯を外していく。
他人が頭の辺りの包帯を取っていくのはなんだかくすぐったく、首をすくめてしまいそうになるが、私はなんとか我慢する。
包帯が最後の一周を回り、頭全体がすっきりする。今まで空気が当たらなかった部分に風が当たり、解放感がある。
「ゆっくりと、目を開けて」
言われなくても、そうするつもりだった。
期待したら、がっかりするだけだと分かっていても、奇跡的に目が見えるのではと期待している自分が、愚かだなと憂鬱になる。
先生に言われたとおり、ゆっくりと、神経質すぎるぐらいゆっくりと目を開ける…
…
何も、見えなかった。
「どう?」
ショックのあまり集中が散漫になっており、誰がそう問いかけたのか分からなかった。男性ではなく女性の声だったので、先生ではなかった。
喋ったら、その反動で涙が出てしまいそうなので、首を横に振り見えないのを伝える。
「明かりを当てるけど、驚かないでね」
瞼に触れ、目を閉じないように固定される。
「あっ」
暗闇に、初めて変化が表れた。
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