「みんな、うまいよ」
「でしょ」
「うん、凄い。よく恥ずかしくないなって」
「おい、それはどういう意味だ」
「あっ! 悪い意味じゃないよ。私、恥ずかしがりやだから、こうやって演技ができるみんなが凄いなって」
語弊のある発言をしたるんは、慌てて言葉の真意を説明した。
「でも、るんは見てるだけで暇じゃない?」
助け舟を出すように、カオルが問う。
「ううん、見てるだけで楽しいよ。それに、見ながらどんな音楽が合うか考えてるし」
「なるほどね」
カオルがうなずく。
「そういえば、るんって合唱の歌とかにも詳しいの?」
客席から、合唱部が合唱を始める。この構想はカオルにしか話していなかったので、舞とるんにも説明した。
舞は手放しに賛同し、るんはカオルと同じように、台詞が聞きづらくならないようにすればいい演出だと言ってくれた。
私が演出し、カオルが脚本を書き、るんが音楽を担当する。この役割分担を知ると『合唱部に協力してくれないか頼むのは、私がやる』と、舞が名乗りを上げた。男女問わず交友関係の広い舞なら、こういった交渉は打って付けだ。
十分ほど休んでから、稽古を再開する。
経験者が一人もいない、顧問の先生も現場にいない頼りない稽古は、稽古の仕方だけでも意見がぶつかり合うが、ぶつかり合う回数が増えるほど、絆が深まっていくような感じがした。
◇
「私、芝居なんか出来ないよ」
十月に入り、半袖では肌寒く感じてきたこの頃、さっきの言葉が朱理と顔を合わせた際の挨拶のようなものになっていた。
私とるんが朱理を訪ねに保健室に行くと、決まって最初に断りの言葉を入れるのだ。
カオルと舞が一緒に劇をやろうと誘い、私とるんが無理に誘わず弱音を聞く。その飴と鞭がうまくいっているらしく、朱理が傷ついたり、心を閉ざしたりはしていない。
「二人のこと、嫌い?」
るんの言う二人とは、私とるんではなく、カオルと舞だ。
「私のことを思って誘ってくれてるから、嫌いじゃないけど…」
嫌いじゃないけれど、誘ってくるのは迷惑。小さな親切大きなお世話なのだろう。
それでも、誘ってくれる心に感謝してくれているのだから、良しとしよう。
朱理から話してこない限り、劇の話をしないように話を進めていった。それは、朱理を傷つけたくないからなのか、自分を傷つけたくないからなのか、この間の口論が頭に蘇り分からなくなる。
悲観的になっているわけではないが、朱理はるんと話している時が一番楽しそうだった。物静かな口調と、柔らかい性格が心を和ませるのか、るんと話している時は笑顔になる機会が多い。
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