「なんか、話がうまく通ってくれると、それはそれで心苦しいね」
花澤先生は私達の作り物に過ぎない熱意に感動し、部の設立を認めてくれた。私達を思ってくれている花澤先生を騙しているようで心苦しい。
「嘘はついたけど、騙さなければいいんだよ」
カオルが、意味不明なことを言う。
「嘘をついた時点で、騙してるのと同じじゃない?」
「確かに私達は、るんが言ったような目的で演劇部を立ち上げようなんて思ってなかった。文化祭だけでいいと思ってたから、この時点で私達は花澤先生に嘘をついたことになる。
でもさ、事態は変ったんだ。私達は花澤先生と部を存続させるように努力すると約束をした。るんがついた嘘をそのまま実行して、部員の勧誘をして、部を存続させる努力をしながら文化祭以降も部の活動を続ければ、花澤先生を騙さなくてすむ」
「そっか、でも、そうなると一層舞を誘いづらくなるね」
「関係ないよ。舞は文化祭だけでいいって誘えばいいんだから。それにしても、さっきは驚いたな。るんがあんなによく喋って、機転が利くとは思わなかった」
「見知った仲なら、結構喋れるんだ。さっきと違って、今の方が緊張してるよ。塚本先生とはあまり顔を合わせてないんから」
確かに、るんは運動神経が悪く体力がないが、病気や怪我とは無縁である。
塚本先生とあまり面識がないのは仕方がない。
保健室に着いた。
保健室に入る前、るんは一度深呼吸をし、緊張を和らげようと努力している。
私が先頭に立ち保健室に入る。私より一歩引いたところにカオルがつき、カオルに寄り添うようにしてるんがついて来る。
「こんにちは」
塚本先生と目が合ったので、私の方から声をかけると、ベッドの方から勢いよくカーテンが開かれる音がした。
「円佳」
カーテンを開けた朱理は、嬉しそうに私の名を呼ぶ。勢い良く開けられはしたが、カーテンは完全には開いていないので、カーテンが視界を遮りカオルとるんが見えていないようだ。
「なに? 円佳の友達?」
返事をしようとした私の肩にもたれるように、カオルが朱理のベッドを覗き込む。
カオルの姿を見た朱理は、慌ててカーテンを閉めようとしたが、焦りからカーテンがうまく閉まらず数ミリしか動かない。
「そんなに怖がらなくてもいいじゃない。同じ円佳の友達同士なんだから」
怖がられているのに、カオルは腹を立てずに、穏やかな口調で朱理に近づく。
「来ないで!」
閉まらないカーテンを必死に引っ張り、朱理が叫ぶ。
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