足を踏み出して

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退会したユーザー

#24

公開日時: 2022年1月16日(日) 15:24
文字数:1,033

 昨日、充電し忘れたんだった。


 どれぐらい眠っていたかは分からないけれど、うたた寝程度ではなさそうだ。うたた寝にしては頭が冴えないし、体も重たい。少なくても一時間は眠っていただろう。


 仰向けのまましばらくボッーと転がっていると、ドアの開く音が聞こえた。


「こんにちは、塚本先生」


「えっと、確か前原さんだったかしら」


「はい、前原カオルです。失礼ですけど、昨日一緒にいた子の名前も覚えてますか?」


「島崎さん」


「さすが、我が演劇部の顧問だ」


 明るいカオルの声が聞こえる。その声が私を癒してくれた。


 カオルが昨日の出来事や怪我を気にしていないのなら、私も気にしなくて良い。そんな図太い考え方をしていないが、根に持たれるより気が楽になるのは事実だ。


 その後、二人は世間話程度の話を続け、距離を縮めていった。


 あえて昨日の出来事に触れないようにしているのか、本当に昨日の出来事をなんとも思っていないので、話す必要がないと思っているのか分からないが、終始明るく会話が弾んでいる。


 そんなのどかではっきりと聞こえていた声が、突然小さくなる。


 ぼそぼそと何かを言っているのは分かるが、会話の内容が聞き取れなくなってしまった。


 好奇心が体を動かし、私はカーテンの傍に体を寄せ聞き耳を立てた。


 よし、聞き取りづらいけれど、何とか内容が把握できるレベルで声が聞こえるようになった。


「本条さんなら、今日も来てるわよ」


 塚本先生の言葉で、今まで聞こえなかったカオルの言葉が想像できた。昨日自分を襲った子は、今日もここに来ているのか確認したようだ。


 朱理が来ていると分かって、私は安堵のため息がこぼれた。


 朱理は、私が保健室で眠っていると塚本先生から聞いているのだろうか?


「少し、本条さんと話していいですか?」


「やめておいた方が良いんじゃないかしら…」


「それは、私を心配して止めてくれてるんですか? それとも、本条さんを心配して?」


「両方よ」


「なら、傷つくのを心配しないで、私と本条さんの仲に亀裂が生じるのを心配してくれませんか? そうしたら、本条さんと話すのを止めるんじゃなくて、応援したくなるはずだから」


「面白いことを言う子ね」


 塚本先生はお手上げといった感じで笑い、朱理がいつも使用しているベッドを教えた。


 出るに出られない状況になってしまった。今までだって盗み聞きしていたのに違いないが、朱理とカオルの話しを聞くのは良心が痛む。


 かと言って、耳を塞いでいられるほど立派な人間でもなく、正直なところ、どんな話をするのか興味がある。

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