昨日、充電し忘れたんだった。
どれぐらい眠っていたかは分からないけれど、うたた寝程度ではなさそうだ。うたた寝にしては頭が冴えないし、体も重たい。少なくても一時間は眠っていただろう。
仰向けのまましばらくボッーと転がっていると、ドアの開く音が聞こえた。
「こんにちは、塚本先生」
「えっと、確か前原さんだったかしら」
「はい、前原カオルです。失礼ですけど、昨日一緒にいた子の名前も覚えてますか?」
「島崎さん」
「さすが、我が演劇部の顧問だ」
明るいカオルの声が聞こえる。その声が私を癒してくれた。
カオルが昨日の出来事や怪我を気にしていないのなら、私も気にしなくて良い。そんな図太い考え方をしていないが、根に持たれるより気が楽になるのは事実だ。
その後、二人は世間話程度の話を続け、距離を縮めていった。
あえて昨日の出来事に触れないようにしているのか、本当に昨日の出来事をなんとも思っていないので、話す必要がないと思っているのか分からないが、終始明るく会話が弾んでいる。
そんなのどかではっきりと聞こえていた声が、突然小さくなる。
ぼそぼそと何かを言っているのは分かるが、会話の内容が聞き取れなくなってしまった。
好奇心が体を動かし、私はカーテンの傍に体を寄せ聞き耳を立てた。
よし、聞き取りづらいけれど、何とか内容が把握できるレベルで声が聞こえるようになった。
「本条さんなら、今日も来てるわよ」
塚本先生の言葉で、今まで聞こえなかったカオルの言葉が想像できた。昨日自分を襲った子は、今日もここに来ているのか確認したようだ。
朱理が来ていると分かって、私は安堵のため息がこぼれた。
朱理は、私が保健室で眠っていると塚本先生から聞いているのだろうか?
「少し、本条さんと話していいですか?」
「やめておいた方が良いんじゃないかしら…」
「それは、私を心配して止めてくれてるんですか? それとも、本条さんを心配して?」
「両方よ」
「なら、傷つくのを心配しないで、私と本条さんの仲に亀裂が生じるのを心配してくれませんか? そうしたら、本条さんと話すのを止めるんじゃなくて、応援したくなるはずだから」
「面白いことを言う子ね」
塚本先生はお手上げといった感じで笑い、朱理がいつも使用しているベッドを教えた。
出るに出られない状況になってしまった。今までだって盗み聞きしていたのに違いないが、朱理とカオルの話しを聞くのは良心が痛む。
かと言って、耳を塞いでいられるほど立派な人間でもなく、正直なところ、どんな話をするのか興味がある。
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